経済・社会

2024.04.08 13:30

インドとの政治・経済連携強化の重要性

2023年に日本は、名目GDP(ドル換算)で、ドイツに抜かれ、世界第4位となった。IMFの予測によれば、2026年には、インドにも抜かれて日本はGDPで世界5位に転落する。

インドの経済成長のひとつの要因は人口増加が続いていることである。昨年、インドは中国を抜いて世界第1位の人口となった。急速に少子高齢化の道をたどる日本とは対照的に、インドの人口は若年層が多い。日本は製造業が圧倒的に強いものの、インドの強みはIT産業だ。インド人のIT技術者が欧米のGAFAなどIT巨大企業はもちろん、金融業でも活躍している。日本にとって、インドは経済構造からみて補完的な国だ。

インドの2023年の成長率は6.7%で、先進国のどこよりも高いのはもちろんのこと、中国の5.2%を上回った。さらに、2024-25年も6.5%成長を維持すると予測されている。中国に代わってインドが世界の成長センターになる可能性が高くなってきた。米中対立により、デカップリングが進むなかでも、民主主義国であるインドは、しっかりと西側の一員として、西側諸国との貿易、投資の絆が強まっていくと期待してよいのだろうか? そうは簡単には、いかないようだ。

トランプ大統領(2017-21年)の「アメリカファースト」政策により、米中の政治的・経済的・テクノロジーの対立が先鋭化、世界経済ではグローバリゼーションが後退、さらにフラグメンテーションが起こっている。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻に対する西側陣営による経済制裁の影響で、ロシア経済、金融市場の中国依存が高まった。中国・ロシアは、経済的、政治的、軍事的影響力が及ぶ範囲の国に対してさまざまな影響力を行使していると考えられる。

そして、西側陣営にも、中露陣営にも属さない「中立的な」立場を維持しようとしている多くの途上国・新興市場国があり、「グローバル・サウス」と呼ばれている。インドは、このグローバル・サウス陣営に属する大国である。

もちろん、すべての国を西側陣営、中露陣営、グローバル・サウス陣営に厳密に分類・定義することは難しい。特に政治的な立場をなかなか鮮明にはしたくない国も多い。しかし、立場を鮮明にしなくてはならない場面もある。例えば、ロシアのウクライナ侵攻直後から1年間の間に、ロシア非難の決議案が6回採択されているが、この決議案への賛成・反対の投票行動から、「西側陣営」「中露陣営」「グローバル・サウス」への分類をすることができる。

インドは、6回の決議案すべてに対して、棄権している。その意味では、政治的に中立を貫いているといえる。貿易構造をみても、輸入先の第1位は中国、輸出先第1位が米国である。さらに、インドが特異なのは、中国を中心とする安全保障機構である上海協力機構に属する一方、西側陣営の安全保障の枠組みであるQUAD(日米豪印)にも属していることだ。
次ページ > 居心地の良い「中立」の旗

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

伊藤隆敏の格物致知

ForbesBrandVoice

人気記事