自らの指針となった。生まれ年のVOGUE

1988年に贈られた、ファッション誌・米国版『VOGUE』1961年1月号

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは少し異なる、特別な関係だ。


THE GIFT #10

鈴木貴子

エステー 会長
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1988年に贈られた、ファッション誌・米国版『VOGUE』1961年1月号。
色鮮やかで上品な装いが、今なお新鮮。
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「貴子が生まれた1961年のVOGUEを見つけたよ。こんな装いが似合う女性になってね」

それは26歳の誕生日、私を妹のようにかわいがってくれた先輩からのギフトだった。本当は1962年だけど、と思いつつページをめくった途端、私は誌面からあふれ出すモードの世界にくぎ付けに。ジャクリーン・ケネディがアイコンだった米国の1960年代ファッションはタイムレスでグラマラスな優美さに満ち、当時バブルという軽薄な時代をどこか冷ややかに見ながら、ワンレン・ボディコンで刹那的に愉しんでいた私に大きな衝撃を与えた。

その後、勤めていた日産を辞め、欧州ラグジュアリーブランドの日本法人数社でマーケティングなどに携わるようになった経歴にも影響を与えたように思う。流行に踊らされない自分だけのスタイルをつくろうと、エステーの社長就任以来、公式の場では全身白のスーツでノーアクセサリーと決めている。

贈り主である先輩は、30代で早逝してしまった。個性的で存在感がある彼には、多くのことを教えてもらった。バーで飲み明かすことも多々あれど、程よい距離感を保った素敵な男友達として今でも忘れ難い存在である。
 

すずき・たかこ◎1962年、東京都生まれ。上智大学外国語学部を卒業後、日産自動車に入社。海外事業本部で輸出マーケティングに従事。LVJグループ(現LVMHグループ)などを経て2010年よりエステー入社。執行役、取締役を経て13年に取締役兼代表執行役社長。ブランド確立と好業績をリード。23年より現職。

文=伊藤美玲 イラスト=東海林巨樹

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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