要するに、ソフトウェアは実際に実務を行う「実務者」を支援するために作られてきたのです。
ユーザー数に応じた価格設定が一般的であるのも、こうした背景から1人あたりの生産性向上効果でコストを正当化する価格戦略が適切とされていたからです。
しかし現在、LLMによってパラダイムシフトが起ころうとしています。
インターネットの黎明期には、多くのウェブサイトが「オフラインの現実世界」に基づいて作られていました。例えば、街の看板に似た大きなバナー広告などがそうです。
同様に、LLMを活用したプロダクトの多くも今はまだ「LLM以前の世界」を前提に作られています。
実際、業務の生産性向上を重視した「Copilot for」系のプロダクトが次々と市場に投入されています。
しかし、LLMにはもっと、既存のビジネスを根底から覆すポテンシャルがあるはずです。それこそ業務の段階的な改善ではなく、LLMによって「完成した仕事」そのものを提供することや、それによって従来のソフトウェア価格モデルから脱却することも可能ではないでしょうか。
実務者に「売る」のではなく、実務者に「なる」
「完成した仕事」そのものを提供することで、従来のソフトウェアでは参入が難しかった業界にもビジネスチャンスが開けるでしょう。この可能性について改めて考えるきっかけをくれたのは、BenchmarkのSarah Tavelが書いたAIスタートアップに関する記事です。
同記事では、個人損害賠償の分野におけるEvenUpのユニークなアプローチについて紹介しています。個人が損害賠償請求を弁護士事務所に依頼した場合、請求に関する書類一式を弁護士やパラリーガルが作成するか、あるいは外注しなければなりません。多忙な弁護士たちの負荷となるこの業務に対し、従来であれば書類作成を支援するツールを提供するのが一般的でしょう。
ところがEvenUpは、パラダイムシフトの可能性を見いだし、「完成した書類そのもの」を提供することを選択したのです。