「描く未来を、証明しよう。」をミッションに掲げ、IT業界での豊富な経営経験を活かした投資を実行するXTech Ventures (クロステックベンチャーズ)の代表パートナー・西條晋一に、その心得を聞いた。
ビジネストレンドとテクノロジーの関係
XTech Ventures (クロステックベンチャーズ)は、主にシード・アーリー期の企業を投資対象とする独立系のベンチャーキャピタル(以下、VC)である。同社の代表パートナーを務める西條晋一は、伊藤忠商事の財務部・為替部を経て、2000年よりサイバーエージェントに入社し、新規事業、子会社の立ち上げに携わった。2006年にはサイバーエージェント・ベンチャーズ(現サイバーエージェント・キャピタル)の初代社長となり、それ以降、国内外における複数の企業で代表を歴任。2018年にXTech Venturesを創業した。
「XTech Venturesでは特定の産業や分野にとらわれず、幅広い事業に対してスピーディーな投資判断を実施しています。また、起業家やスタートアップに関わる方々に向けたプラットフォームを提供するなど、成長を支援する活動にも積極的に取り組んできました」
幅広い分野のビジネスと関わるぶん、投資対象にはビジネスのトレンドが透けてくる。テクノロジーに強みをもつビジネストレンドの変遷を西條は次のように語る。
「私たちが第1号ファンドを設立した2018年頃は、自社のECサイトを通じて顧客に商品を直接販売する、いわゆる『D2C』がひとつのトレンドでした。
くわえて、医療系のベンチャーも活況で、幅広いユーザーを対象とした『SaaS(Software as a Service)』関連の事業にも注目が集まっていた。
しかし、第2号ファンドの組み入れを始めた2020年の後半には『SaaS』のプレイヤーが増えすぎてしまい、反動でニッチな産業のコアな事業に参入する動きが顕著になったんです。その頃から、ディープテック分野のハードウェアをつくるような事業も増えたという実感があります」
起業家の年代もまた、時流を反映している。ICT関連市場の急速な成長に支えられ、1990年代末~2000年代初頭にかけて巻き起こった起業ブームの際は、20代の起業家が数を増やした。
2010年代以降になると、メガベンチャーで経験を積んだ知見の豊富な30〜40代の起業家のボリュームが増加。スタートアップ界隈の盛り上がりも加速したと西條は分析する。
スタートアップ共通のテック課題は「組織づくり」に直結
時流を反映しながら話題を集めるようになったスタートアップだが、立ち上げの際のテクノロジー投資が不安の種となっているとのデータがある。デル・テクノロジーズが2022年に実施した設立5年未満の起業家150名への調査によると、ビジネス立ち上げの際に抱えるリスクとして、「誤ったテクノロジー投資(31%)」が「人材確保(37%)」に次いで、2番目に高いことがわかっている。
スタートアップが抱えるテクノロジーの課題について西條は、自身の経験を踏まえて業務管理や組織づくりに関わるものだと指摘する。
「ビジネスの領域や事業内容にあまり関係なく共通してネックになるのは、クラウドをはじめとする業務管理ツールの問題ではないでしょうか。チャットツールひとつにしても、どのように報告をして、どのように案件を進めていくのかを決める要因になり、それが社内共通のルールやマニュアルを形成していく」
「ところが、スタートアップの人々は、事業に関わるテクノロジーに対して関心を持っていても、組織をつくっていくうえで必要なテクノロジーについては理解のないまま創業するケースも多くみられます」
例えば、社内での連絡体制、業務管理ツールなどが整備されていない状態。メンバーが個人的な判断で案件を進めてしまう結果、優先順位が定まらず、余計な仕事が増える。そうこうしているうちにリリース期限が迫ってくるので、成果が発揮されないといった状況が訪れるのだ。
加えてハード面についても、スタートアップ特有の問題があると話す。
「スタートアップの特徴のひとつとして、メンバーの入れ替わりが激しいことが挙げられます。そうした環境で一人ひとりに都度ハードを購入していると、グロースするタイミングで一気に負担がのしかかってくる」
「そうなって初めて、『どうすれば安く仕入れることができるのか?』『どうすれば会計上の負担を減らせるのか?』『そもそも固定資産の管理ってどうするんだっけ?』といった課題が浮き彫りになってくるわけです」
「どんな価値提供ができるか」にコミットすべき
西條の話から、スタートアップはソフト/ハードの両面で、主に組織づくりや業務管理の観点からテクノロジー投資が必要だとわかる。「意外に思われるかもしれませんが」と前置きしたうえで、西條は真意をこう説明する。「VCであるXTech Venturesの立場からすると、企業の技術力自体を評価している投資案件は実はそれほど多くないんです。VCであるXTech Venturesの立場からすると、企業の技術力だけを評価して投資する案件は実はそれほど多くないんです。私たちが注目しているのは、その技術を用いながら起業家自身の強みなどを生かして、ユーザーにどんな価値を提供できるのかというところ。AI関連の企業であれば、どのようなデータを保有してどのように社会に活かせるのかという点が、技術力以上に重要になるということです」
「だからこそ、テクノロジーの部分は多様なサポートに頼り、それによってできた時間を人的ネットワークの構築や付加価値の創出に充てることは非常に有効だと考えます」
大企業、黎明期のベンチャー企業、そしてスタートアップを支援するVC。あらゆるステージにおけるビジネスに携わってきた西條が語る「ネットワーク構築」の必要性。そこに見出せる“相乗効果”に、西條は少なくない可能性を見ている。
「起業する際にはビジネスモデルの将来性はもちろんのこと、いかに優秀な起業家のネットワークに入るかが重要になります。事業展開のことや資金調達のことなど、コミュニティ内で情報共有することによって相乗効果を発揮することができる。私たちとしても創業支援プログラムやシェアオフィスや交流会といったプラットフォームを通じて“横のつながり”を意識した支援に取り組んできました」
さらに西條は、日本経済が成長していくためには「大企業によるイノベーションが不可欠」と言い切る。
「スタートアップが成果を出せば、大企業はM&Aなどによって事業を取り込み、プラットフォームや既存顧客といった強みを活かして、さらに大きなビジネスにしていくことができる。スタートアップに求めたい役割は、大企業から生まれない独自のビジネスを創出することです」
創業間もないスタートアップを支援しようと、デル・テクノロジーズは「デル起業家支援プログラム」を提供している。専門のアドバイザー制度、ハードウェアの特別割引を案内しており、西條も「大きな助けになるだろう」と評価した。
起業家同士のみならず、事業成長の要となるインキュベーターやアクセラレーターとの人的ネットワークも構築できるプログラムのメンバーコミュニティも用意。西條の言う横のつながりつくりの一助となりそうだ。
デル起業家支援プログラム
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西條晋一(さいじょう・しんいち)◎1973年徳島県生まれ。1996年早稲田大学法学部卒業後、伊藤忠商事に入社し財務部・為替部を経験。2000年サイバーエージェントに入社。サイバーエージェントFX、ジークレストなど多くの新規事業、子会社の立ち上げに携わり、複数社の代表取締役を歴任。2004年取締役就任。2006年にはサイバーエージェント・ベンチャーズ(現サイバーエージェント・キャピタル)の初代社長として、日本およびアジア各国のベンチャー投資業務と組織を構築。2008年には本社の専務取締役COOに就任。2010年から約2年間は米国法人の社長を兼務しシリコンバレーに駐在。2013-2017年WiL共同創業者ジェネラルパートナー。2018年XTechおよびXTech Venturesを創業。2018年エキサイトホールディングス代表取締役社長CEOに就任。2022年日本ベンチャーキャピタル協会理事に就任。
デル・テクノロジーズのスタートアップ、スモール・ビジネス向けの支援プログラム
デル起業家支援プログラム
2023年4月から始まった、創業10年未満のスタートアップ企業を支援する無償のプログラム。主な特長は以下の4つ。① 経験豊富なアドバイザー
スタートアップ企業が直面する課題やニーズに対して、特別なトレーニングを積んだ専任のテクノロジー アドバイザーが、ユーザーに寄り添い、ビジネスの状況を理解し、最適なアドバイスを提供する。
② よりスマートに、より迅速に成長
パソコンからインフラを支えるハードウェア、各種サービスまで、ビジネスの成長に応じて柔軟に拡張できる最適なテクノロジー ソリューションを提案する。
③ 投資の効率化
スタートアップ企業が限られたリソースを最大限有効活用できるよう、メンバー限定の特別割引や柔軟なファイナンス ソリューションの提供でサポートする。
④ ネットワークの拡大
メンバー限定のコミュニティーをはじめ、インキュベーター、アクセラレーターなどとのネットワーキングの機会を活用できる場を提供する。
デル起業家支援プログラム
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https://www.dell.com/ja-jp/dt/forms/contact-us/forbes-fy25q1.htm
デル テクノロジーズ アドバイザー
専任IT担当者の確保が難しい小規模企業を中心に、ITに関する顧客の悩みや要望をヒアリング、課題の整理と解決策の提案を行う。「製品を売って終わりではない」強い意志とともに、さまざまなITの専門領域に特化したチームが、顧客企業に対してオーダーメイドでソリューションを提供、支援する。有形無形のサポートで、ビジネスを成功に導く仕組み。デル女性起業家ネットワーク(DWEN: Dell Women Entrepreneur Network)
デル・テクノロジーズが女性起業家の支援を目的に実施しているグローバルなプロジェクト。ファイナンス・マーケティングの知見の共有や、人的ネットワークの提供、そしてIT活用に関する支援などを行う。2024年4月時点で全世界で約10万人のメンバーが参加中。https://dwen.com/ja/
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