トリゴネリンはアルカロイドと呼ばれる分子で、特にコーヒー豆に多く含まれているが、他にもスパイスのフェヌグリークや大麦、トウモロコシ、大豆、タマネギ、トマトなど、さまざまな植物に含まれている。
独医学誌ネイチャー・メタボリズムに掲載された新たな研究では、複数の生物種の血液中のトリゴネリン濃度を調べたところ、濃度が高いほど筋力や筋機能が高いことが分かった。逆にトリゴネリン濃度が低いと、加齢にともなう筋肉量の減少や筋力の低下を示すサルコペニアを引き起こす可能性が高かった。
この研究を主導したのはスイスとシンガポールの学者だが、米国、英国、フィンランド、イラン、オーストラリアを含む複数の国の研究者が参加した。研究を率いたスイス・ネスレ・リサーチのジェローム・フェージュ博士は、食品から得られる天然分子が細胞の老化の徴候に作用することを発見し、高揚していると述べた。その上で、トリゴネリンが加齢にともなう細胞代謝と筋肉の健康維持に役立つことは、将来有用な応用につながる可能性があると強調した。
筋肉が老化すると、細胞の発電所と言われるミトコンドリアのエネルギー生産効率が低下する。その主な理由は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)と呼ばれる分子が加齢とともに減少するからだ。NAD+はミトコンドリアの機能に不可欠で、デオキシリボ核酸(DNA)の修復や調節、免疫細胞の機能にも関わっている。
今回の研究では、トリゴネリンはNAD+の前駆体で、NAD+は細胞内でトリゴネリンから作られることが判明した。NAD+の他の前駆体としては、ビタミンB3の一種のほか、鶏肉や牛乳、チーズ、オート麦、バナナなどの食品に含まれるアミノ酸L-トリプトファンがある。
実験でマウスにトリゴネリンを与えたところ、NAD+の濃度が上昇し、ミトコンドリアが活性化した。さらに、マウスが歳を取っても筋肉の機能が維持されることが分かった。
この研究を共同で主導したシンガポール国立大学医学部のビンチェンツォ・ソレンティーノ研究員は、今回の研究でNAD+の前駆体としてトリゴネリンが新たに発見されたことによって、NAD+代謝に関する理解が深まり、健康長寿や加齢にともなう疾患への応用で、NAD+産生ビタミンを用いた介入を確立する可能性が高まったと説明した。
NAD+濃度が低下すると、認知機能の低下や代謝性疾患、がん、虚弱体質、筋力低下を引き起こす場合があり、NAD+濃度を回復させることで、こうした症状に対処できる可能性もある。マウスの実験では、トリゴネリンが記憶力や学習能力の向上のほか、抗炎症作用にも関係していることが示された。
コーヒーは心臓や血管の働きを促進するなど、さまざまな健康効果があるとされている。他方で、カフェインを大量に摂取すると、不眠や頭痛、不安感や落ち着きのなさといった症状を引き起こすこともある。また、ブラックで飲めばコーヒー自体のカロリーはほとんどないが、一般的なコーヒー系飲料には砂糖や脂肪が大量に含まれていることが多く、適度に摂取しないとダイエットに悪影響を及ぼす可能性もある。
(forbes.com 原文)