映画

2024.04.01 12:00

「過剰コンプラ」で消えゆくディズニーアニメの魔法 過去の栄光を取り戻せるか?

Alain Nogues/Sygma/Sygma via Getty Images

Alain Nogues/Sygma/Sygma via Getty Images

ディズニーアニメに最後に心を揺さぶられたのは、いつだったろう。

米アカデミー賞の「長編アニメーション賞」は創設以来、ディズニーがほぼ独り勝ちを続けている部門だ。そんな同賞を、今年は宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』が受賞した。

このすばらしい作品の受賞は当然の結果だが、その背後にはディズニーアニメの凋落が見え隠れする。

消えゆく魔法、アカデミー賞連勝の栄華

2006年に米アニメーション制作会社ピクサー・アニメーション・スタジオを買収したディズニーは、2007年(『レミーのおいしいレストラン』)から2021年(『ミラベルと魔法だらけの家』)まで、連勝街道を突き進んだ。受賞を逃したのは2019年の『スパイダーマン:スパイダーバース』と2012年『ランゴ』の2作品のみである。

「長編アニメーション賞」部門は長らく、アカデミー賞選考メンバーに重要視されていなかったかもしれない(授賞式ホストのジミー・キンメルに揶揄されたことも)。しかしその傾向は徐々に変わりつつある。それは去年と今年の受賞作が、ギレルモ・デル・トロ監督の『ピノッキオ』と、宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか』だったことからもよくわかる。

この2つは、製作陣が自身の思い(そして、アニメという媒体)に真摯に向き合い、そこに主軸を置いた挑戦的な作品だ。どちらも軽やかながら重みのある展開で、観客に生と死について考える機会を与え、エンドロールを見終わった後も深い余韻を残す。

このような「クリエーター主軸の製作」は、もうディズニーにはできないのかもしれない。ディズニーの全盛期は遠い昔。近年の目立った傾向は、過去の名作を劣悪な実写版でリメイクすることだ。それはまるで、過去の栄光にすがっているようにも見える。

「過剰コンプラ」に陥るディズニー

私は子どもといっしょにほぼすべてのディズニーアニメを見たが、正直、最後に感動したのがいつだったか思い出せない。どれも似たり寄ったりで、印象が薄いせいだろう。

多くの作品に透けて見えるのが、安全第一、コンプラ重視の姿勢。その仕上がりは、スパイスを入れ忘れた料理のように、どこかもの足りない。お気付きだろうか、昨今のディズニーアニメには、わかりやすい悪者が登場しなくなったことを。テーマも安全第一、「主人公のトラウマ解決」一択だ。

『ミラベルと魔法だらけの家』のような子どもの心を捉えやすいストーリーでも、やはり安全第一。ネットの炎上を恐れ、かつての名作アニメのような、踏み込んだプロットを避けている。家族の中で1人だけ魔法が使えない主人公がありのままの自分を受け入れ、自分の役割を見つけるというストーリーは心温まるが、似たような話を他でも見た気がする。

近年のディズニーオリジナル作品では、『ウィッシュ』と『ストレンジ・ワールド/もう1つの世界』の2本が、興行的に大コケした。さらに寂しいのは、それに関するネットのざわつきもなかったことだ。

ディズニーはもはや『君たちはどう生きるか』のように美しく、難解で、魂を震わせる作品が作れないのかもしれない。
次ページ > 名作『ニモーナ』がディズニー映画だった可能性も

翻訳=猪股るー

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事