インタビュー会場は、品川にある大林組の本社だった。この社屋こそ、現代アートに強く興味をもつきっかけとなった場所であるから「取材はここがいいと思った」と大林剛郎は微笑んだ。
人が行き交う3階のロビーでは、草間彌生のガラス作品がパーテーションの役割も果たす。18階から28階までを貫く吹き抜けには、フランソワ・モルレーの作品が垂直に伸び、色彩と明るさを与えている。そのほか、合計18人の現代アーティストによる作品約70点が建築に融合する本社は、社員や来客が楽しめる“セミパブリックな美術館”でもある。
作家とともに生きる楽しみ
「大林組東京本社アートプロジェクト」は今から25年前、神田から品川へ本社を移転する際に、当時現役だった大林の父・大林芳郎と本社のあり方を考えたところから始まった。本業であるまちづくりにおいて、利便性や安全性はもちろん重要だが、景観や歴史の観点からも文化は切り離せない。「技術の会社だからこそ、人文知が重要」だという意識があった。また、インターネットが普及し始め、コミュニケーションの希薄化が予見されるなか、自然と会話が生まれ、社員たちの感性が磨かれるような場所を思い描いた。そのために、ただアートを飾るのは違う。本社のスペースに合わせて作品を作ってもらおうと、原美術館創設者の原俊夫、クリエイティブディレクターの小池一子など、社内外のメンバーからなるコミッティを組成。アーティストを選考し、18人にコミッションワークを依頼した。「その過程で作家と会えることが、とても興味深い体験だった」というのが、アートコレクター大林剛郎の原点だ。
「現代美術はそれ以前のアートと異なり、美しいだけではなく、作品に多様なコンセプトがある。見たことも、聞いたこともないような作品やコンセプトがどう生まれたのか、作家に直接聞くことができる。作家とともに生きることができるのが、現代美術の面白さです」
そこから、アーティスト、美術館、ギャラリスト……と数珠つなぎに世界が広がっていった。現在数百点にも及ぶ「大林コレクション」は個人所有のため詳細は非公開だが、大林組としては、2022年に竣工した大阪本店においても、若手作家の作品を中心に多く取り入れている。
心奪われる作品との出会い方
国内外の美術館の理事や評議員も務める大林に、アートの助言を求めるコレクターや経営者は多い。そこで大林が伝えるのは、作品や作家など「自分の“好き”を見極める」ことだ。では、その「目」はどう磨くことができるのか。「とにかく良い作品をたくさん見ること。できれば海外の美術館がおすすめです。例えば、私は昨年マドリードのプラド美術館を訪れましたが、そこには数百年経っても国際的に評価されている作品がある。そこで、それがなぜかを考えるんです。日本美術も同様。時代を超えるものには理由がある。それを知るには美術史を勉強することも役に立つでしょう」