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2024.04.09

売上げ爆増488億ルーブル─ロシアで売れる「大人のおもちゃ」

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2023年のロシアにおけるセクシュアル・ウェルネス製品の売上は、金額ベースで38%、数量ベースで43%増加した。この市場の専門家は、このような急成長について、ロシア人がより頻繁にセックスでストレスを解消するようになったからだと説明している。その結果、アダルト商品の売上は、従来、不安を紛らわすために用いられてきた商品(アルコール、菓子、抗うつ剤)を成長率で上回っている。


ロシアの18歳以上向けの商品市場(大人のおもちゃ、ローション、セクシーなランジェリー、栄養補助食品、土産物の売上を含む。但しコンドームの売上は除く)は2023年に38%増加し、488億ルーブルに達した。昨年、ロシア人はこのような商品を約5000万~5300万個購入した(前年比43%増)。これは、フォーブスもよく知るSupplier of Happiness社(サプライヤー・オブ・ハピネス社、アダルトグッズ販売最大手のひとつ)の調査によると、このように述べられている。

「市場の成長はパンデミック時にピークを迎え、その後2020年末には売上高が75%急増し、168億ルーブルに達しました」。同社の創業者であるドミトリー・コロビツィン氏は説明する。2010年から2019年まで、ロシア市場は毎年10~15%ずつしか成長しなかった(2019年末までの市場規模は96億ルーブル)。しかし、パンデミック後、成長は加速した。2021年には27%増の213億ルーブル、1年後にはさらに66%増の354億ルーブルとなった。

「噛んで」不安を和らげる

サプライヤー・オブ・ハピネス社の分析家は、この調査の中で、アダルトグッズの需要と、アルコール、抗うつ剤、菓子といった従来のストレス解消グッズとの間に関係性を見出している。

2022年以降、これらの商品群の消費は増加傾向にある。ニールセンIQのデータによると、12カ月間(2022年3月から2023年3月まで)の菓子売上高は金額ベースで19.8%の伸びを示している。また、ロシアにおける抗うつ剤と鎮静剤の売上は、2023年に30%増加した。連邦アルコール・タバコ市場管理局によると、2023年にロシア人が店頭で購入したアルコールは2022年よりも4.1%増加したという。このように、2023年、すべての「抗ストレス」商品群の消費は増加傾向にあった。そしてその中でも、より目覚ましい売り上げを記録したのが性的健康商品であったのだ。

「我々の調査によると、少なくとも男性の25%、女性の10%がセックスをストレス解消の手段のひとつであると考えています。アルコールとスイーツはセックスをわずかに上回る結果となっており、男性の約30%がアルコールを(女性では最大8%)、スイーツは女性の約25%、男性の12%がストレスを解消する際に手段として選択するようです」。サプライヤー・オブ・ハピネス社のコロビツィン氏はこう説明する。

「ストレスが長引くと、人々は基本的な欲求を満たすことで、不安を和らげようとする傾向があります」。このように指摘するのはペトロヴァ・ファイブ・コンサルティングのマリーナ・ペトロヴァ社長だ。

「菓子、アルコール、タバコ、抗うつ剤、アダルトグッズといった『幸福の代用品』市場が成長しているのは、ストレスが理由だといえるでしょう」と彼女は続ける。

例えば、ロシア人は「噛むこと」で不安を和らげようとする、と専門家は説明する。「ストレスの多い時、人々は2つの感情に対処しようとします。怒りや苛立ちが、噛めるもの(ナッツや固いキャラメルの入った製品)への需要につながり、優しさや愛情への欲求が、ムースデザート等のカテゴリーの需要を増やすのです」とペトロワ氏は言う。

また、ペトロワ氏は、アダルトグッズ市場の成長は、単にストレス解消の手段であるからというだけではなく、世代交代によるものでもあるという。「1991年以降に生まれたロシア人はすでに5000万人を超えており、彼らは人生に対してより自由なアプローチを持っています。なんでも試してみる、という土壌が整っているのです」とペトロワ氏は考察する。

「ロシアのアマゾン」Ozonでも売れている

流通手段の変化も一定数アダルトグッズ市場の成長に寄与しているようだ。実際にセクシュアル・ウェルネス分野での需要は、オフライン店舗からオンライン店舗へのシフトと並行して増加している。

オンライン市場がアダルトグッズの取引を引き継ぐ場となっている、とコロビツィン氏は断言する。2GISのジオサービスによると(フォーブス誌より)、2022年に人口100万人の都市におけるアダルトグッズのオフラインショップの数は、6.4%減の897店であった。2GISはそれ以降の新規データを発表していない。しかし、「2023年には、さらに約3%のオフライン店舗が閉店するのではないか」とコロビツィン氏は推定している。

同氏によると、2023年末にはオンライン商取引が市場の73.7%を占めるようになるという。「18禁部門のオンライン市場は、「若いギャング」たち、つまり、中国から輸入したノーブランド品をブランド化したり、中国、インド、ロシア、ベラルーシの生産施設において、自分のブランドとして安価な商品を発注したりする、プライベートブランド(STM)所有者がほとんどです」とコロビツィン氏は言う。

このような企業家は、オンライン市場の売上の88%を占めており、この1年間で、プライベートブランドの売上は188億ルーブルから320億ルーブルへと70%も増加した。彼らの存在により、セクシュアル・ウェルネス部門における平均請求額は伸びていない(フォーブスによると、現在810ルーブルを超えていない)。しかし、レシートの数とそれに応じた金額自体は増加しており、それに伴い、ロシア国民一人当たりの消費量も増えている。

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また、ロシア最大のオンライン市場の代表らによって確認されたように、セクシャル・ウェルネス製品の売上は記録を更新し続けている。

「2023年末時点で、18禁カテゴリーにおける売上の伸び率は70%に達しました」とWildberriesのプレスサービスの代表者は言う。「平均請求額はほとんど変化なく、約700ルーブルです。同時に、販売者数も前年比で52%増加し、自社ブランドの設立も増えています。中国発のプライベートブランド部門のシェアはすでに約70%です」。

彼らは、ロシアの大手オンラインマーケットプレイスで、「ロシアのアマゾン」ともいわれる「Ozon」でのアダルト製品の売上が着実に成長していることを示している。

「2023年、18歳以上向け商品の売上高は前年比53%、金額ベースでは57%増加しました。 最も急成長しているのは、セクシーなランジェリー、ラブコスメ、大人のおもちゃ等です。このカテゴリーの出品者数は、ロシアのブランドも含め、ほぼ1.5倍に増加し、同カテゴリーの平均請求額は2022年の水準を維持しましたが、金額は商品のカテゴリーによって異なります。

例えば、2023年第4四半期の大人のおもちゃ部門の平均請求額は1200ルーブル以上であり、コンドームとローションについては500ルーブル代に留まっています」

同氏はまた、オンライン経路でのアダルトグッズ購入がロシア人の間で習慣化しつつあるという。例えば、Ozonでは、18禁カテゴリーの顧客の購入頻度は実に「月に1回以上」だ。

伸びるプライベートブランドのシェア

知名度の低いプライベートブランドの製品は、欧米の定番ブランドをロシア市場から追い落とし始めている。Supplier of Happiness社の調査によると、2023年末までに、「ローション」と「大人のおもちゃ」のカテゴリーにおいて、プライベートブランドのシェアは、ロシアで販売される18禁商品全体の85%を超えている。

地元メーカーは、プライベートブランドの本格的な流入について語っている。「昨年、自社ブランドの立ち上げをセクシュアル・ウェルネス・カテゴリーで希望する人の数が何倍にも増加しました」。こう驚くのはJaga Jaga社(ロシアのセクシュアル・ウェルネス製品メーカー、フォーブス誌)の広報ディレクターであるアンドレイ・ナルクナス氏だ。

「 2、3年前にはアダルトグッズ部門での起業を考える人はほとんどいませんでしたし、いたとしても実施までは至らないことがほとんどでした。あったとしても、売り手が中国からわけ怪しい商品を持ってきて、ロシアで再包装するくらいでしたね。

現在、市場では熾烈な価格競争が繰り広げられており、同じ商品でも異なる取引プラットフォームで常に価格が比較されています。その結果、一部の商品が従来の小売店の棚から姿を消したり、ダンピングが発生しています。そして、唯一の出口はプライベートブランドを作ることなのです」

"Jaga Jaga"社は、2000年からセクシュアル・ウェルネス製品を製造しており、18種類以上の製品(大人のおもちゃ、肛門刺激剤、ローション、ラブコスメと香水、栄養補助食品、マッサージオイル)を1300種類以上製造している。

この市場でブランドを立ち上げるのは難しいのだろうか?「最も単純な協力の方法は、生産工場から出荷される際に、商品にブランド名を付けず、売り手が購入した商品の個性化を自社で行っていくことです」とナルクナス氏は説明する。

「このような契約の単発価格は、最小ロットのコスト、約5万ルーブルから始めることができます。売り手であるお客様にとってはやや難しくなりますが、全体の生産量という点で一般的なのは、お客様が包装やラベルを当社に送り、当社がお客様のプライベートブランドで、生産された商品を包装したり貼り付けたりする方法です。このような契約の価格は個別に計算されますが、原則として15万ルーブルから始まり、40万ルーブルを超えることはありません」

どちらの方法でも、プライベートブランド商品の認証を義務付けるものではなく、製造者の証明書や申告書を使用することが可能である。

ナルクナス氏によれば、独自の仕様を持ってくる特別な顧客がいるという。彼らは、特定の製品を特定のパッケージで、また、特定の特性や機能性で開発・製造するよう注文する。このような契約は100万ルーブルから始まる。「さらに、販売者は、例えば栄養補助食品のような多くの製品について申告や証明書を取得しなければなりません」と彼は警告する。3つ目の方法は、製品開発のための研究開発作業、かなり大量の最小生産ロット、個別の申告と認証を前提としているため、最もコストがかかる。

コロビツィン氏は、「2024年末には、経済的激変が起こらなければ、市場は少なくとも20%成長し、600億ルーブルに達するだろう」と予測する。彼の意見では、これは主にオンライン市場における18禁カテゴリの発展と、既存および新規プレイヤーによるプライベートブランドの品揃えのさらなる規模拡大によって起こるという。

同氏の予測によると、2024年には、セクシュアル・ウェルネス製品の売上の最大80%がオンライン市場で行われ、プライベートブランドのシェアは市場の72.4%に達する見込みだ。

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