多様性社会の最先端と、その教育実践が語られる『普通をずらして生きる ニューロダイバーシティ入門』(伊藤穰一・松本理寿輝)が発売された。脳科学者・茂木健一郎はどう読んだ?
──『脳とクオリア なぜ脳に心が生まれるのか』で鮮烈なデビューをされてから四半世紀以上が経ちました。いま、茂木さんの研究されているテーマは何なんですか?
生成AIの時代になって、人間の個性って何だ? っていうことが、ますます重要になってきていますよね。いま僕は東京大学とソニーコンピュータサイエンス研究所で人工生命や「集団的知能」というテーマの研究をしています。
コレクティブ・インテリジェンス(Collective Intelligence)というんですが、つまりアリでも鳥でも人でも、生命というものはみんな、集団のなかにあることではじめて個性を発揮する。その個性というもののメカニズムを探っています。
なかでも、集団のパフォーマンスが最大限発揮できる条件は何か、というのは面白いテーマですね。それぞれの個性が集団内で発揮されることで「集団的知能」のパフォーマンスが上がり、創造性だったり、あるいは企業だったら利益につながる発想や仕組みが生まれる。
その要件の一つが、多様性なんです。海外の研究では男女比が50:50の集団こそ、いちばんパフォーマンスが上がるということが実験でわかっています。
そしてもう一つの要件が、社会的感受性。お互いに分かり合おうとする感覚があればあるほど、チームや組織のパフォーマンスは向上する。ですから、ジェンダー、年代、考え方などさまざまな「ちがい」をもった人が集まった環境は、とっても可能性に満ちているんです。
いかに人間がそれぞれの個性を発揮できるか。これを語る上でのキーワードは、多様性と社会的感受性なんです。