教育

2024.04.01 17:00

茂木健一郎が語る「日本にはニューロダイバーシティ人材が必要だ」

(c)Itaru Hirama 2021

普通からズレた個性を守ってあげる


──典型的な思考は生成AIにお任せして、そこに付け加えるアイデアやデザインにこそ、人間の個性の出番があると。
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そうです。「普通」からはみだしたものが個性であり、はみだしの発想や表現、対応能力に長けているのがニューロダイバージェントの人たち。活躍の場がどんどん増えていくはずです。

──ニューロダイバーシティという個性を、社会で歓迎するためにはどんなことが必要になってくると思いますか?

まさに、はみだした個性を柔軟に受け止めて、理解し、それを活かせる環境をプロデュースできる人が必要になるでしょう。
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昔、映画『レインマン』の主人公のモデルになったキム・ピークを訪ねてソルトレークシティに行ったことがあります。彼は脳の右半球と左半球をつなぐ脳梁という部分がない人なんですが、その影響で見たものをスキャンするようにして記憶できてしまう。

映画でも、ウェイトレスの電話番号を即座に覚えてしまうシーンがあったと思いますが、あれです。ただ、9000冊にも及ぶ本を暗記してしまったという、そういう特殊な能力って、彼一人では気づけない。

キム・ピークの場合は、お父さんのフラン・ピークが彼の「個性」に気がついて、周囲からすると奇妙な振る舞いをする息子に対して上手に接し、人々の理解も得られるようにそばについて支えていたんです。

『レインマン』はアカデミー賞の脚本賞を受賞しますが、そのオスカー像をお父さんがいつも持ち歩いている。なぜかというと、レストランなどで息子が妙な動きをして周りのお客さんを驚かせた時には、お父さんがオスカー像を見せる。一瞬で息子の個性が理解してもらえる、というわけです。また、お父さんがいたからこそ、キム・ピークを通じた自閉症研究が発展しました。

イギリスの画家、スティーブン・ウィルシャーの場合は妹さんが彼の才能をプロデュースしたと言っていいでしょう。ウィルシャーは自閉症者ですが、見たものをそのまま記憶できる能力を持っていて、上空から見た街の風景を記憶し、窓の数までを正確に描写します。この才能を発見し、うまく社会に紹介できたのは、妹さんがパートナーとしてそばにいたから。

このように、普通からズレた個性を守ってあげる人がいることが、ニューロダイバーシティの社会にとって何よりも重要だと思います。

──いわゆるデジタル人材というのは、デジタル世界に精通している人のことではなく、精通している人のプロデュースが上手な人のことを言うのと似ていますね。

まったくその通りです。ですからこれからの時代は「ニューロダイバーシティ人材」と呼ばれるべき人がとても重要になってくると思います。

そのためにも、「分ける」のではなく「混ぜる」環境になじんだ人がたくさん育ってほしい。多様性と社会的感受性のセンスを備えた人たちが、この先の日本と世界を担うと思いますし、「非定型」と「定型」の人たちが協力して最大限のパフォーマンスを発揮できる時代になる。

これって希望じゃないですか?




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text by Tomoya Tanimura

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