川崎:ヘンリー・ジェンキンズが『コンヴァージェンス・カルチャー』で指摘したようなネットユーザーの参加型活動が、結果的に環境配慮の普及に貢献している様が興味深いです。ブロックチェーン技術は、トレーサビリティへの貢献と同時に、ファンダムの団結にも効果を発揮します。米スタートアップEONとバレンシアガの協業による、環境データと限定音楽ファイルが同時にダウンロードできる取り組みはファンの間で話題になりました。
蘆田:多様性を重んじてたくさんの選択肢を用意するような産業側の努力も大事ですが、既製品による美の基準やシステムから抜け出して、自分だけのスタイリングを見つける感覚という個人の努力も、ファッションの未来を広げていくとも思います。
ファッションは、流行として社会に表れる現象でもあり、個人の実践でもあり、そのせめぎ合いが面白い。個人の身体に最適化するという意味でのパーソナライゼーションとは、別のところでファッションを楽しむことも重要です。
倉田:その感覚はすごくわかります。最近、そうした需要にフィットするように古着が再ブームになりました。長く着られる1着には、年齢を越えられるデザインの質も必要です。1着に対して顧客に何通りものスタイリングの選択肢を想像させる力がある。つまり、服と顧客の関係性がインタラクティブである必要があります。メゾン・マルジェラを皮切りに、モデルではなく、ストリートキャスティングすることで、従来の画一された美の基準に「バグ」が生まれました。顧客がさまざまな着こなしを起こすことも「想像のバグ」として美の基準を多様化するきっかけになると思います。
川崎:無駄のない最適化された生産が広まり、生成AIによるもっともらしいトレンド予測やデザイン生成が可能な近未来で、個人や地域差による「バグ」は創出できるのか、という問いが重要です。カリスマデザイナー神話が崩れつつある今、人工生命学者・池上高志さんが言うように、膨大なデータから個々人がバグを見いだす営みが求められるのかもしれません。