消費者需要の多様化やデジタル領域への拡張によって縦横無尽に発展し続けているファッション市場。特に環境問題や労働環境といったサプライチェーン(供給網)も含めて関心がある消費者層、市場関係者が増え、さらにサステナビリティの重要性も高まっている。
そんななか、経済産業省は2022年3月、『ファッションの未来に関する報告書』を発表。デザイン、製造、販売、使用、リセールについて、デジタルからフィジカルまで多様な視点を加えながら従来の産業構造から望ましい未来を描き、話題を呼んだ。今回の座談会では、同報告書の続編となるような議論が展開された。
川崎和也(以下、川崎):環境危機の進行やテクノロジーの加速度的な進化によって、ビジネスモデルやブランド、デザイナーのあり方に変化が求められていると感じています。衣服の生産と消費は地球規模のビジネスであり、同時に個人の身体やアイデンティティにかかわることである以上、ファッションの変化は私たちの社会が変わることではないか、と考えています。本座談会では、『ファッションの未来に関する報告書』やその先について話ができればと思います。

川崎:私が経営するSynfluxはファッションロスゼロのためのソフトウェア「アルゴリズミック・クチュール」を開発し、サステナブルな衣服の設計支援事業を展開しています。私は同研究会の委員として、AIに代表されるデジタル技術をファッション産業のポジティブな変革にどのように活用すべきかについて議論を提起しました。
現在のファッション産業を概観すると、製造システム全体の最適化を目指すサーキュラーエコノミー型事業と自己表現や個人のニーズに個別最適化するパーソナライゼーション型事業のふたつの方向性が立ち現れています。どちらも長く望まれたビジョンですが、ビジネス上の矛盾もはらみます。
KEYWORDS|『ファッションの未来に関する報告書』
経済産業省には2021年11月に有識者会議「これからのファッションを考える研究会」を設置。34人の有識者と計5回にわたる議論の内容を取りまとめた全190ページの報告書。公表以降、大きな話題を呼んだ。