2023年12月にくらしアプライアンス社の社長に就任した堂埜茂は、冗談とも本気ともつかない表情で、古巣に復帰した感想を語った。パナソニックは22年4月に持ち株会社制に移行。くらし領域の事業を束ねる事業会社として商号を引き継いだ新・パナソニックは、5つの社内分社を中心に構成されている。そのうちの2社が、白物家電を手がけるくらしアプライアンス社と、中国事業を中心に担う中国・北東アジア社だ。堂埜はもともと白物家電全体の責任者を務めていたが、22年に中国・北東アジア社のトップに就任。高齢者向け居住区の開発など新しい挑戦をしていた最中だった。
呼び戻された背景には、国内白物家電事業の低迷がある。22年3月期、くらしアプライアンス社の営業利益は645億円だった。前年には史上最高益の795億円を計上したが、そこから2年連続で減益が続いた。
堂埜には、不振の原因がはっきりと見えていた。「家電はシンプル。いかにお客様に愛される商品を愛される価格で出せるかに尽きます。ただ、日本では22年から新販売スキーム(売れ残りの返品に応じるかわりに販売価格を指定する制度)を本格導入するなど、流通改革が中心でした。そこにウエイトが置かれた結果、現場が家電の原点に時間を割けなくなった」
お客様に愛される商品を愛される価格で提供する──。お手本は、堂埜が中国で戦っていた美的やハイアールといったメーカーだ。日本の家電は高機能だといわれるが、前のモデルに機能をアドオンしていくため、使われない機能であふれ、価格も高い。一方、中国は訴求したいものだけに機能を絞りこみ、価格はリーズナブル。中国メーカーに“安かろう悪かろう”のイメージをもつ人もいるが、今や、“安かろう良かろう”だ。
「いまだにその現実を認めず、『中国メーカーは俺たちのマネをしている』と先生気分が抜けていない社員もいます。もはや先生役は中国メーカー。かつて松下電器産業は欧米メーカーのマネをして、『マネシタ電器』とやゆされました。我々はもう一度、謙虚な気持ちでマネシタになるべき」
成功体験を捨てるのは勇気がいるが、堂埜は自己否定をいとわない。京都大学卒業後、松下電工に入社しR&D部門に配属。創業者松下幸之助の遺した言葉に触れる機会が多かった。お気に入りは「日に新た」。朝令暮改を良しとする創業者の姿勢に共感し、自分もそうありたいと思った。