火星上には、1909年鋳造の米1セント硬貨が1枚ある。そして、第16代大統領エイブラハム・リンカーンの肖像が刻まれていることから「リンカーン・ペニー」の愛称で知られるこの銅貨には、重要な任務がある。
火星では2012年から米航空宇宙局(NASA)の無人探査車「キュリオシティ」がゲール・クレーターの探査を行っており、リンカーン・ペニーはこれに「搭載」されているのだ。
NASAのキュリオシティ運用チームは3月21日、X(旧ツイッター)の公式アカウントへの投稿で、リンカーン・ペニーがなぜ火星にあるのかを説明した。「これは1909年製のリンカーン・ペニーで、MAHLI装置の校正用ターゲットの一部だ。この1セント硬貨は、岩石や土壌のクローズアップ写真に大きさの比較基準として縮尺が明らかな物体を入れる地質学の伝統にちなんでいる」
A penny for your thoughts?
This is a 1909 Lincoln penny, and it’s part of the calibration target for my MAHLI instrument. The penny is a nod to a geology tradition, where an object of known scale is used as a size reference for close-up photos of rocks and soil. pic.twitter.com/6geJbUWmgD— Curiosity Rover (@MarsCuriosity) March 21, 2024
MAHLIの正式名称は「Mars Hand Lens Imager(火星拡大鏡撮像装置)」。キュリオシティの伸縮するアームの先端に取り付けられており、機能は地質学者が地球上で用いる手持ちの拡大鏡によく似ている。火星の地表のクローズアップ画像を撮影し、岩石や地形の特徴を細部まで明らかにできる。
どの年に鋳造された1セント硬貨でも、校正用ターゲットとしての用途は果たせる。NASAが1909年製の硬貨を採用したことには、特別な意味があった。この年はリンカーン生誕100年に当たり、リンカーンの肖像が刻まれた1セント硬貨が初めて発行された年なのだ。
ところで、校正用ターゲットはリンカーン・ペニーだけではない。硬貨の上方に見える段差のついた図形に注目してほしい。NASAはこう説明している。「MAHLIは、異なる焦点距離で一続きの画像を撮影するか、カメラを動かして2枚対のステレオペア画像を撮影することで3次元情報を提供できる。ターゲット下部にある段差のついた図形と1セント硬貨は、既知の表面形状を用いた三次元校正に役立つ」