野球の人気が、フットボールやバスケット、アイスホッケーなどに比べて、比較的劣位に甘んじていたアメリカにあって、これほど野球が一般人の話題に上るのは本当にひさしぶりのことだ。
野球のルールもあまり知らない若い人たちまでが、街で「大谷はシロかクロか」との話題に興じる姿は異様な光景であり、これまでのアメリカでは想像もつかなかったことだ。
そして、ここが大谷選手のすごいところかもしれないが、「大谷を信じる」という人が圧倒的に多く、SNSなどでの書き込みもそうなっている。大谷選手の悪口を書く人間が出てくると、あっという間にそれに対する反論が集まり、悪口を叩きのめす。また、叩きのめしている人は、青い風船で自分のコメントを締めくくるなどしているから、ドジャースのファンが成敗しにきたという体裁だとわかる。
大谷選手をディスると批判の嵐
しかも、こういった「擁護」の多さからすると、必ずしもドジャースのファンだけが身内びいきで大谷選手を擁護しているのではなく、野球ファンの多くが大谷選手に声援を送っているのだと考えても言い過ぎでない。たとえば、大谷選手の記者会見を真っ先に自社のネットにあげたABCニュースに寄せられた批判コメントはこのようなものだった。
「信じられないことだと感じています。大谷がこの国に長年いるのに英語が話せないなんて、素晴らしい防御力ですね」
このような大谷選手の英語力を皮肉ったコメントが出ると、すかさず「じゃあ、おまえが大谷と同じくらい日本に滞在して、どれだけ立派な日本語を喋れるのか見てみたいものだ」という反論が飛び込んでくる。
さらに続けて「なぜイッペイの主張を信じるべきなのか、彼が学歴の詐称を行っている事実があるのに、すでに明らかに彼が詐欺師であることは明らかではないのですか?」というコメントも飛び出す。
また、『私はアメリカの最も有名な嫌われ者です』というベストセラーの著者であり、過激で挑戦的に対象をこき下ろすことでよく知られたラジオ番組の有名ホスト、ハワード・スターンでさえも、今回の事件では大谷選手をひと言もこき下ろすことなく、むしろ、メジャーリーグの球団であるアスレチックスがラスベガスに移転することが決まっている時代に、選手に賭け事を禁じるということがそもそも適切なのかどうかという議論に興じていた。
このように、いまのアメリカは、大谷選手をディスることは、むしろSNSなどでは批判の嵐を食らうというような雰囲気にあり、筆者を含め、アメリカに居住する肩身の狭い思いをしている日本人は、ほっと胸をなでおろしている。
しかし、大谷選手と所属するドジャースの法務チームが、ここからの法務戦略を間違えると、この動きも急反転することがありうるので、気を抜けない。「大谷批判タブー」がここ数日続くとしても、やはり「大谷を信じるにしても、なぜ大谷は窃盗に気がつかなかったのか?」というコメントはたくさん湧き起ってきていて、それが今後、司法機関を牽引していくからだ。