スポーツ

2024.03.27 14:45

大谷選手の会見、全米では「擁護」が多いが、これから立ちはだかる司法問題

考えうるベストな法務戦略とは?

推測の域を出ないが、大谷選手の発言内容が事実ならば、一般的にここからの法務攻防は次のようになるだろう。

まず、被害額からいって、刑事裁判と民事裁判の両建ては不可避だ。約7億円(450万ドル)の被害にあって民事裁判を起こさなければ、どこかで(水原氏と)つながっていたのではと思われてしまう。

また、「事件」がカリフォルニア州内だけで起きているとは限らないので(水原氏の賭博は、全米移動中にも行われたとして)、おそらく連邦刑事裁判所が事件を担当する。そして民事はおそらくカリフォルニア州裁判所だ。

すると、それぞれの「普段の交流がほとんどない」裁判官どうしの、メディア露出を当然意識したうえでの「うちが先に裁判を進める」とか「あっちの裁判が進んでからこっちをやる」という裁判の運用問題が出てくる。州の裁判官であれば、次の自身の選挙にどう利用するかという考えが働いてもおかしくない。

これだけ見ても、大谷選手サイドの法務チームが考えねばならないシナリオは多岐にわたり、相当な戦略が必要とされる。さらに、大谷選手とドジャースのそれぞれの法務が同じ方向を向けるかどうかということも、今後、問題になってくる。ここが仲たがいを始めると、とても醜いことになる。

ここで言う同じ方向とは、大谷選手が試合で全力を出せるような環境を、球団と大谷選手自身でつくり上げることに尽きるのではないだろうか。それにあたってのポイントは、水原氏に重罰を与えることではなく、二転三転したような当初のコメントを二度と表に出させないこととなる。

水原氏のコメントは、それが法廷外であっても法廷内であっても、大谷選手の「環境」に直接影響する。であれば、「水原氏を証言台に立たせない」ということが最大の戦術となるだろう。

とすれば、自分たちが裁判の当事者となれる民事裁判ができるだけ先に行われるように働きかけながら、実際には和解を目指すべきだ。和解条件に「非開示条項」を入れて、すべての和解内容を外に出さないというのは1つの戦略だ(弁済1ドルと謝罪で和解するという戦略さえありだ)。

そして、刑事事件裁判では、「民事ですでに和解している」ことをもって、水原氏に執行猶予がつく可能性を高める環境をつくり、検察と水原氏の司法取引に誘導する。もともとアメリカの刑事事件の8割以上は司法取引で決着がつき、裁判は開かれない。

これができれば、水原氏は刑事事件でも証言することがないので、彼のコメントは外にでない。アメリカの司法当局は、賭博に参加する人間より賭博を主催している人間の処罰に興味があるので、水原氏がFBIに全面協力して主催者逮捕につなげることができれば、巨額の窃盗といえども執行猶予の司法取引が実現する可能性は高まる。

真実が、報道内容より仮に多少の複雑性があったにしても、あるいは「言った、言わない」の記憶が双方で多少の齟齬があるにしても、水原氏や大谷選手がそれぞれ弁護士とだけ話した内容は、弁護士秘匿特権によって守られる。仮に裁判で尋ねられても証言を拒否することができる(日本では必ずしもそうではないが)。

従って、究極のポイントは、大谷選手が弁護士と配偶者以外、たとえ両親であっても球団社長であってもロサンゼルスタイムスの記者であっても、今回の記者会見した以外のことを喋らないことである。

これが破られると、秘匿特権が自動的に放棄されたとみなされ、もし水原氏の弁護士が、嘘八百を並べてでも刑期を軽くする作戦に動いた場合、大谷選手が喋った相手は証言台に呼ばれ、法務チームのコントロールはパンクし、心ない人たちによってSNSは荒らされて、大谷選手は無心でバットを振れなくなる。

在米邦人にとって、その華々しい活躍から、大谷選手は久しぶりに地上に降臨した神のような存在だ。これからもますます頑張ってもらいたい。執拗にカメラとマイクを向ける報道陣には、ひと言も喋る必要はない。友人や先輩や恩師たちも、大谷選手に「ここだけの話で」と事件に対する質問をしてはいけないのだ。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
過去記事はこちら>>

文=長野慶太

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事