昨年1位のタイ・バンコクのトン・ティティッ・タッサナーカジョン氏の「レドゥ」は今年は12位となったが、同氏が手がける、よりタイの色が濃い「ヌサラ」がより上位につけて6位に入った。
香港のヴィッキー・チェン氏がフランス料理の技術を使って中国の味を表現する店「ヴェア」は68位の一方で、中国料理の技法を使い、より中国料理のルーツをはっきりと表現した「ウィン」が5位にランクインしていることも、その傾向をよく示していると言えるだろう。
授賞式の前日に開催されたトークイベント「50ベストトーク」もそんな時代性を反映していた。トークのテーマは、「人々の食」について。より日常的な食事や、自国の独自文化に根付いた食を、いかに洗練されたものに変えてゆくか、ということについて話し合われた。
50ベストのコンテンツ・ディレクター、ウィリアム・ドリュー氏は、「アジアの魅力は多様性。他の地域のどこよりも、豊かなダイバーシティを持つと言える。全てを見て回るには、『一生』かけても足りず、『二生、三生』が必要なのではないかと思えるほど、魅力に溢れている」とその多様性を称賛し、今後もその文化の深さをリストを通して表現していければと語った。
サステナブルなアプローチを追求
また、今回のリストの特徴は、サステナブルな社会に向けたさらなるアプローチでもある。ドリュー氏は、コロナ禍が明けて消費が活発化してからも、飲食やホスピタリティ業界全体で世界的に人材不足が続いていることに言及。飲食業のサステナブルとして「ランキングはトップに立つシェフだけでなく、チーム全体が受け取るもの」と強調し、次のように語る。
「レストランには、スタッフの一人一人をこれまで以上に大切にすることが求められている。実際に情報発信をする際にも、スタッフにもスポットライトを当てるように心がけており、トップシェフのみならず、業界自体を若者に憧れられるものにしてゆきたい」
“アジアのベストペストリーシェフ”に選ばれた、東京「ファロ」の加藤峰子シェフも、里山の風景を後世に残したいという思いを込めて作る「花のタルト」や日本の主食である米を見直してほしいとつくったビーガンデザートなど、サステナブルな社会へのメッセージを込めたものが多く、そのメッセージ性も評価されたと考えられる。