早期の漁獲証明の全魚種義務化を
さらなる法律上の課題もある。現在の法律では、漁獲証明の内容は漁業者からサプライチェーンの伝達は義務付けられているものの、小売業者から消費者への表示義務は課せられていないのだ。これでは消費者は漁獲証明の情報を知る術もないのだ。ただし考え方によれば、これは小売業者にとってはチャンスでもある。漁獲証明の情報を商品の付加価値として自主的に消費者に示すことができるのだ。より食品の安心、安全、正当性、持続可能性に取り組む企業として、漁獲証明を活用して、他の業者との差別化することができるからだ。
実際、「セブン&アイホールディングス」の代表取締役専務執行役員最高サステナビリティ責任者(CSuO)である伊藤順朗氏は、次のように述べている。
「流通適正化法については、EUのように全魚種にトレーサビリティを義務づける法的な制度があったほうが、より私どもも含め日本の小売りのIUU漁業の排除への取り組みが進むのではないかと思います。
前提として、『大手小売』としての責任は感じつつも、スーパーマーケットは過当競争で、特に鮮魚部門は弊社グループに限らずほとんどのスーパーが経営的に厳しい状況でも頑張っているのが現状です。
IUU水産物について、仕入れ(卸)の段階でトレーサビリティが担保されていなくても流通しており、この課題を解決しない限り、現状はどれがIUUの魚かは見分けられない状態であるというのは言うまでもないことです」
とはいえ、トレースができていない水産物を扱わないのは、現実問題としては難しいらしい。MSC(海洋管理協議会)やASC(水産養殖管理協議会)認証取得の水産物を増やす努力はしているが、次のような課題もあるという。
1. 認証取得のコスト的な問題
2. 魚種が限られていること
3. 量的にも現状の販売量をとてもカバーできない
イトーヨーカドーでは、店舗でCoC認証(加工・流通過程の認証)は取得しており、「顔が見える魚」(14魚種)というトレーサビリティのはっきりした漁師養殖業者との取り組みもしている。それでも鮮魚売上高全体では構成比は低い状態だという。
「お客さまにこれらIUU漁業や水産資源の枯渇の実情をお伝えすること、割高でも買って頂くことも容易ではありません。消費者啓発も継続的にしていかなければならないと思っていますが、効果を上げていくためにも義務化(法制化)は必要であると思います」(前出・伊藤氏)
このように企業努力による消費者に向けた積極的な持続可能性を高める取り組みを後押しする意味でも、早期の漁獲証明の全魚種義務化が待たれる。