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2024.03.29 11:00

「コンクリートでCO2をマイナスに」環境配慮型の資材を生み出す鹿島建設の挑戦

水に次いで世界で2番目に消費されている物質と言われているコンクリート。しかし、このコンクリートは材料となるセメントの製造プロセスで大量のCO2を排出することから、製造方法の見直しや新たな技術・材料が求められている。

そんななか、2019年の世界経済フォーラムで鹿島建設の研究者が開発したコンクリートが注目を集めた。CO2を吸収することで硬化するコンクリート「CO2-SUICOM®」(シーオーツー・スイコム)が建設業界、ひいては社会にもたらす影響とは。サステナブルコンクリートを取り巻く現状とともに探っていく。


世界が注目する画期的なコンクリート「CO2-SUICOM」

「コンクリートとCO2を反応させることはタブーというのがこれまでの常識でした」

鹿島建設 技術研究所 主席研究員を務める坂井吾郎(以下、坂井)は、開発に携わるメンバーから新しいコンクリートのコンセプトを初めて聞いた時の印象をこのように振り返る。

一般的にコンクリートに使用されるセメントは石灰石を焼成して製造するため、セメント1tあたり766kgのCO2を排出する。これに対し「CO2-SUICOM®」は、CO2と反応して硬化・固定化する特殊混和材「γ-C₂S」(ガンマシーツーエス)を使用。セメントの量を最小限に抑えつつ、CO2の吸収によりコンクリートのCO2排出量ゼロ以下を実現している。

だがこれまで、CO2との反応によって起こるコンクリートの炭酸化は、鉄筋の酸化を誘発させ、コンクリートとしての耐久性を十分に保てないとされてきた。この常識を覆すことになった経緯について、坂井は次のように語る。

「04年に、1万年以上の耐久性を有するコンクリートとして「EIEN」(エイエン)を開発しました。この開発でカギとなったのが、中国の大地湾で発掘された約5,000年前の住居の遺跡です。調査を進めたところ、現在のコンクリートと同じ成分を含む材料でつくられており、非常に良好な状態であることがわかりました。そしてその健全性を保つ要因となっていたのが炭酸化にあったという事実に辿り着きました」

それから鹿島建設の研究員たちは、炭酸化と耐久性の関係を徹底的に調査。数年の時を経て、従来のコンクリートと同様に、CO2を用いても強度や耐久性に優れたコンクリートを生み出す製造工程を導いた。こうして強靭な耐久性を武器とする「EIEN」が誕生。その技術を応用したかたちで08年に「CO2-SUICOM®」を開発、実用化に向けて動き出した。

鉄筋を酸化から守る技術の研究・開発は今も続けられているが、現在「CO2-SUICOM®」は小型無筋プレキャスト製品として、舗装コンクリートブロックや歩車道境界ブロックなどに活用されている。

23年5月には高速道路の橋脚工事における埋設型枠に初めて導入された。埋設型枠とは、コンクリート打込み後も構造物の一部として使用される型枠のこと。コンクリートの打込み後に型枠を外す必要がないことから生産性の向上につながるだけでなく、「CO2-SUICOM®」を用いることでCO2削減を可能にしている。

サステナブルコンクリートを充実させる意義

「CO2-SUICOM®」の活用が、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する一方で、その効果を最大化させるには乗り越えなければならないハードルも存在する。そのひとつが生産体制だ。

「スイコムは製造過程で大量かつ高濃度のCO2をコンクリートに強制的に吸い込ませるため、養生槽で温度や湿度をコントロールしながら短期間で炭酸化する生産体制をとっています。コンクリートは重量や輸送コストの側面から現場で生産されるのが一般的ですが、養生槽を必要とするスイコムは生産場所が限られてしまう。そこで我々は、全国各地でスイコムの製造拠点をつくることを視野においた取り組みを続けています」

加えてコストが高いこと、生産できるサイズが限定的であることも課題となっている。しかし、鹿島建設へ入社後、技術研究所にて高流動コンクリートの研究開発に携わり、広島県や熊本県にあるダムの建設現場にてコンクリートの品質管理なども手がけてきた坂井は、「CO2-SUICOM®」の可能性に大きな期待を寄せている。
「CO2-SUICOM®」のコンクリート片を手に語る技術研究所 主席研究員 坂井吾郎

「CO2-SUICOM®」のコンクリート片を手に語る技術研究所 主席研究員 坂井吾郎

「これまでCO2を排出してきたコンクリートが、カーボンネガティブを実現するという役割を得て環境課題に貢献できることは、とても意義のあることだと思っています。また私を含め、現場の経験を持つ研究員たちがスイコムのさらなる可能性を追求することで、新しい製品を生み出すことができる。スイコムの用途が広がり需要が高まればコストも抑えられるので、今後もこのコンクリートが持つ可能性を広げていきたいと考えています」

鹿島建設では、「CO2-SUICOM®」のほかにも、セメントを産業副産物などに置き換えた「セメント低減コンクリート」、骨材や粉体にCO2を固定化する技術を用いた「CO2固定型コンクリート」など、サステナブルコンクリートを複数用意している。

「現段階においてスイコムの活用用途は限られています。そのため、まずは従来のコンクリートと同様の工程で利用できる『セメント低減コンクリート』や『CO2固定型コンクリート』を採用いただくことで、CO2削減に向けた取り組みの一環に寄与できればと思っています。またスイコムをはじめとするサステナブルコンクリートの認知度を高めるための活動も積極的に行っていきたいと考えています」
2023年4月に開設された「KAJIMA CONCRETE BASE」

2023年4月に開設された「KAJIMA CONCRETE BASE」

「CO2-SUICOM®」など複数のコンクリートについて解説

「CO2-SUICOM®」など複数のコンクリートについて解説

コンクリートの表面加工に関する展示も

コンクリートの表面加工に関する展示も

同社は2023年4月、サステナブルコンクリートの普及に向けた施策の一環として、技術研究所西調布実験場内に「KAJIMA CONCRETE BASE」を開設。コンクリートミュージアムとして「CO2-SUICOM®」をはじめとするさまざまなコンクリート技術を紹介している。あくまで関係者に向けた施設のため一般公開はされていないが、オンラインミュージアムが設けられ、特設サイトでは誰でもアクセスすることが可能となっている。

空間を360度映し出すオンラインミュージアムは、まさにその場にいるような体験型となっており、コンクリートの種類ごとに、使用している資材や特徴を知ることができる。

環境課題の解決に挑むのは、企業だけの話ではない。技術者たちが生み出した技術に触れ、自分に何ができるのかを考えることもこの先の未来には必要だ。鹿島建設のこうした新たな展開は、社会課題を考えるきっかけにもなることだろう。

サステナブルコンクリートをスタンダートに

「土地を切りひらいて建造物をつくる建設業は、環境に大きな負荷をかけるイメージがついて回ります。ですが私たちだからこそ果たせる役割がある。我々は工事現場に生息する植物や生物の保全活動など、専門家の方々と共に自然との共生を図る取り組みを積極的に行っています。

サステナブルコンクリートを開発、普及させていく活動もそのひとつです。CO2排出を低減する、またはマイナスにするコンクリートが建設業界のスタンダードになるまで、地道に、そして着実に取り組んでいきたいと考えています」

坂井は今後の展望についてこう答えた。

鹿島建設はコンクリート製品メーカーや生コン工場、プラントメーカーなど55社と共同でコンソーシアムを組成。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金を利用し、企業の枠組みを越えて「CO2-SUICOM®」のその先に向けた取り組みも進めている。

「CO2-SUICOM®」の利用が一般化すれば、日本のみならず世界の建設産業に大きなインパクトをもたらすことはいわずもがなだ。今後の展開に大いに期待したい。



鹿島建設
https://www.kajima.co.jp/

KAJIMA CONCRETE BASE特設サイト
https://www.kajima.co.jp/tech/c_sus_con/

KAJIMA CONCRETE BASE ONLINE MUSEUM
https://mpembed.com/show/?m=u7e5Cu5vsNq&mpu=687&mpv=2

NEDOグリーンイノベーション基金事業
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-manufacturing-concrete-using-co2/

Promoted by 鹿島建設 | Text by Motoki Honma | photographs by Daichi Saito | edited by Aya Ohtou (CRAING)

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