投資に注目が集まる今こそ、金融経済教育が必要
新NISAがスタートし、株価が史上最高値を更新する中、投資に対する関心はかつてないほどに高い。一方で、投資に対する知識のない個人はいまだに多い。個人が投資することでお金が企業へと流れ、持続的な成長につながるという「インベストメントチェーン(投資の連鎖)」の流れは加速するのだろうか。こうした環境下で、AM-Oneは金融経済教育を行う「アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所」を昨年10月に立ち上げた。そのミッションを所長の伊藤雅子(以下、伊藤)は語る。「投資に踏み出すすべての人に必要な金融経済教育を行っていきます。知識だけでなく行動へとつながる情報提供をしていきます。特に金融業界だけに留めず、異業種とのコラボレーションを積極的に進めていく予定です」(伊藤)
今回、AM-Oneがコラボレーションした異業種企業は国内の「キッザニア」を運営する企業だ。子どもたちがオンラインでさまざまな仕事や社会を学べる「キッザニア オンラインカレッジ」というアプリで、「ファンドマネジャー」を体験できるコンテンツをリリースした。
「体験価値」を重視した新鮮なアイデアであることが注目された
「キッザニア」とコラボレーションするアイデアが生まれたのは、新入社員を対象とした研修の最終日。全役職社員に向けたプレゼンのときだった。研修ではグループに分かれてプレゼンの課題に取り組む。複数のテーマがあったなかから、AM-Oneの『認知度向上に向けた提案』を選んだ理由を、トレーディンググループの中道拓馬(以下、中道)は語る。「全員が認知度向上をテーマに選んだのは自然な流れでした。グループメンバー全員が、入社する会社を周囲に伝えたとき、あまり知られていないという経験をしていたからです。アセットマネジメントOneという会社をもっと多くの人に知ってもらいたいという、共通の思いを持っていました」(中道)
AM-Oneの認知度に関する問題点をあげて話し合いを進める中で、浮かんだ仮説について経営企画グループの松永龍太(以下、松永)はこう話す。
「当社は資産運用会社であり、運用でよいパフォーマンスを出すことがひとつの価値です。ですが、今はこの、数値的なパフォーマンスを出す、という機能的なアピールに留まっているのではないか。我々の仕事そのものを知ってもらえれば、会社の印象を変えることができるのではないかと考えました」(松永)
彼らは、AM-Oneの認知度向上に向けた具体的な解決策を30案ほど出し合った。最終的に「キッザニア」とコラボレーションするアイデアに絞り込んだ理由を、投資信託営業第一グループの秋原理子(以下、秋原)は語る。
「投資は難しい、危ないというイメージをもつ人もいます。子どもたちにファンドマネジャーの仕事を体験する機会ができれば、資産運用会社の存在にも親しみを感じてもらえるのではないか、と考えました」(秋原)
新入社員たちは全役職社員を交えた最終プレゼンで、「キッザニア」とのコラボレーションに関するアイデアを発表した。運用リスク管理グループの葛西優介(以下、葛西)は「アイデアが採用されるとは思っていなかった」と語る。
「最終プレゼンでは『海外での金融経済教育の事例をどう思うか?』など鋭い質問が出て、うまくいった感触はありませんでした。新入職員には奇抜なアイデアを求めていると思っていたので、採用されることを前提にせず、新入社員ならではの目線を感じてもらえる面白いテーマにしようと思ったからです」(葛西)
新入社員のアイデアに注目したのは、4月末に実施した最終プレゼンの場にいた伊藤だった。
「当社はちょうどブランディング戦略に取り組もうと考えている時期でした。アセットマネジメントマネジメントOneとしてCX(カスタマーエクスペリエンス)を高める施策を考える中で、彼らの考えた、ファンドマネジャーの『体験価値』を重視したプレゼンが響いたのです。また、認知度をあげるための施策を考えると、費用体効果を気にしてどうしても大人向けの施策が多くなります。だからこそ、子どもたちに体験を届けるという切り口が新鮮に映りました」(伊藤)
さっそく伊藤は、キッザニアとのコラボレーションについて調査を始める。すると「キッザニア オンラインカレッジ」という、オンラインで職業体験ができるアプリがあることを知った。始まったばかりの取り組みで、まだ金融系の職種のコンテンツはない状況だった。
「よいチャンスだ」と考えた伊藤は、問い合わせフォームからアプローチした。そこでキッザニアが掲げるコンセプト、「職業・社会体験を通して、子どもたちの生きる力を育む」を知った。AM-Oneのコーポレート・メッセージ「投資の力で未来をはぐくむ」との親和性を強く感じ、共同開発に向けた取組みが決まった。ここから、新入社員を中心とした「キッザニアオンラインカレッジ」とのコラボレーションプロジェクトが始動することになる。
リアリティとファンドマネジャーの仕事の意義を伝えることにこだわる
プロジェクトが本格的に始動したのは2023年9月。共同開発したコンテンツがリリースされたのは2024年3月26日。わずか7カ月で共同開発は進められた。まず新入社員たちは、子どもたちにどんなアピールをしたいか、どんな付加価値が提供できるのかを知ろうと、豊洲にある「キッザニア東京」の施設に足を運んだ。
「キッザニアが子どもたちに提供する体験はけっして『ごっご遊び』のレベルではなかった。その仕事をする大人が実際にやっていることを体験できるリアリティを感じました」(秋原)
「キッザニア東京で行われた貸切イベントで、特別に自分たちも職業体験をしました。大人でも知らないことを教えてくれるので、僕らがやっても面白い。本格的な内容だからこそ、子どもは大人になれたような気がして、親にも話したくなるのだとわかりました。キッザニアとのコラボレーションは子どもだけでなく、親御さん世代への金融経済教育にもつながるのではないか」(中道)
プロジェクトには新卒4名の他に研究所のメンバー、動画編集メンバー、若手ファンドマネジャーも参加。プロジェクトに関わっていない人から客観的な感想を知るため、小学生の子どもがいる職員にモニターとしての参加を募り、実際に子どもたちにアプリのデモを触ってもらい感想をもらうこともあった。
コンテンツ開発は、どのように進んだのだろうか。
「私たちがアプリのたたき台となるアイデアを考え、それを軸にKCJ GROUPが企画を練り、アウトプットを出していただきました。そのアウトプットに、私たち新入社員がフィードバックするというやり取りを何往復も行い、だんだんと形になっていきました」(松永)
共同開発でもっとも苦労した点について、中道は「子どもたち、キッザニア、私たち三者のバランスをとることだった」と語る。
「大事なのは、子どもたちがファンドマネジャーの仕事を理解でき、楽しんで体験してもらえること。そして、わかりやすさと面白さだけを重視しすぎて、実際の仕事をデフォルメすることは決してしないというキッザニアの軸。最後に、投資を儲かる・儲からないという博打的な解釈ではなく、投資によって社会が良くなっていくことを子どもたちに感じてほしいという私たちの想いです」(中道)
バランスを取るために重要だったのは、ファンドマネジャーの仕事の意義を開発メンバーに理解してもらうことだった。若手ファンドマネジャーの協力を得て、新入社員自身もファンドマネジャーの仕事への理解を深めながらプロジェクトは進行した。
4人は新入社員として各自の部署に配属され仕事を覚えていく日々を送りながら、2023年9月から2024年3月頃まで週に1~2回プロジェクトチームの打合せを行った。紆余曲折を経て、できあがったコンテンツはどのような内容なのだろうか。
「RPG型のコンテンツで、結婚や生活資金などさまざまな目的でお金を増やしたいと思う街の人々のお金を集めるところから始まります。ファンドマネジャーが街を歩くと、社長に出会ったりする。社長から業績や新商品の計画などの話を聞き、その会社の株に投資するか見送るかを判断し、選択次第でファンドの価格が上下します」(葛西)
所要時間は10~15分で、コンテンツ内では10年が過ぎる。ファンドマネジャーが短期的な利益だけを追い求めないことをわかってもらうために、あえて長期の設定にした。アプリのエンディングではファンドが増えたことを喜ぶだけでなく、ファンドマネジャーの仕事によって、街の人々や企業にうれしいことが起きる。
このプロジェクトを通じて、自らのアイデアが形になった新入社員はどのような想いをもったのだろうか。
「我々のアイデアは子どもたちにファンドマネジャーを体験してもらい、やがては資産運用会社の存在やAM-Oneを認知してもらうというものでした。しかし、未来をはぐくむ研究所とプロジェクトを共同で進めたことにより、投資自体がより良い社会・環境につながることを理解する、という視点が加わった。その分、コンテンツ作成の難易度は上がりましたが、子ども向けの金融経済教育として、高いクオリティのコンテンツになった」(松永)
「自分たちのアイデアがまさか実現するとは思ってもいませんでした。アイデアから企画が生まれ、新たな挑戦ができる環境に非常にやりがいを感じました」(秋原)
投資は企業活動の源泉となり、社会の発展につながる
「キッザニアオンラインカレッジ」との共同開発を通じて、新入社員たちは今後AM-Oneでどのような価値を世の中に提供したいと考えているのだろうか。「一般的に子どもが生まれるタイミングで、将来のお金のことを真剣に考える人が多いですよね。子どもが生きていく将来の社会についても考える。そんな親御さんたちが本アプリでの体験を通じて、投資の力はより良い社会をはぐくむ原動力にもなっているということを感じてもらえたらうれしいです」(中道)
「プロジェクトを進めていくなかで、将来、子どもがなりたい職業ランキングにファンドマネジャーがランクインするようになればいいねと話していました。もし、その願いが実現したなら、投資に対するイメージは非常によくなっていくと期待しています。投資したお金が企業活動の源泉となり、企業が利益をあげて投資家に還元される。社会全体が豊かになるよいサイクルをみんなで作っていけたらと思います」(秋原)
「投資と投機の違いを知ってもらうきっかけになればと思っています。投資は投資したお金によって、企業が社会活動を行い社会全体が発展していきます。一方、投機はゼロサムゲームで、誰かが勝てば誰かが負けるもの。投資の仕組みを正しく理解して、投資活動をしていく人が増えてほしいです」(葛西)
「投資に注目が集まっていますが、ある程度自動的に運用してくれるロボアドバイザーや低コストのインデックスファンドにも注目が集まっています。しかし、ファンドマネジャーという職業を理解する人が増えたとしたら、『このファンドマネジャーが運用するファンドだから投資しよう!』など、ファンドの選び方にも変化が現れるのではないでしょうか」(松永)
「キッザニア」との共同開発は、AM-Oneが掲げる「投資の力で未来をはぐくむ」ことに明確につながっている。
「投資においては個人の利益が重要ではありますが、投資先の企業が社会課題を解決すれば、社会で暮らす人たちにも恩恵があります。個人の人生の豊かさのみならず、社会の豊かさもはぐくむ好循環をいかにつくるかが今の日本に問われているのではないでしょうか。
アセットマネジメントone 未来をはぐくむ研究所では、一人ひとりがお金とより良い関係を作り、安心して人生を楽しむことが出来る未来を目指しています。『ファンドマネジャー』の職業体験を通じて、投資は人生の目的ではなく手段であること、リスクを避けるのではなくコントロールするという考え方が大事であること、さらには長期でお金を増やす喜び、投資と社会のつながりまでを、ぜひ未来を担う子どもたちに体感いただきたいと思っています。」(伊藤)
アセットマネジメントOne
https://www.am-one.co.jp/