ライスヌードルの店を都内で探す
では米線(ライスヌードル)についてはどうなのか。後日、広州出身の中国の友人にその点を訊ねたところ、彼はこう話してくれた。
「広東のローカルな食文化には、大排檔(ダイパイドン)と呼ばれる屋台やファミレスのような茶餐廳(チャーチャンテン)などの世界があります。それらの店では、自分のその日の好みで麺やスープ、トッピングを選ぶのは普通のこと。麺には黄色い小麦麺と白い米麺があり、米の麺は「米粉(マイファン※広東語読み)」といって、朝食としてよく桂林風の汁なし米粉を食べます」
ライスヌードルは、香港や広東の人たちの日常食として親しまれていたのだ。
こうした経緯もあって、筆者は中国南方で広く食べられているライスヌードルの店を探して都内を歩いた。
浅草にある「桂品楼」(台東区西浅草1-7-18)では、中国広西チワン族自治区にある景勝地の桂林のご当地麺「桂林米粉」を食べた。ピリ辛の汁なし麺で、もちもちの食感で、先ほどの広東人が朝よく食べていたという屋台メニューである。
同店は2022年5月にオープンしたそうで、店長は桂林出身の徐さんという青年が務めている。来日5年だというのに、日本語もしっかりしていて、桂林料理をもっと日本の人に知ってもらいたいと話していた。
今年2月に新大久保にオープンした貴州米粉(貴州風ライスヌードル)の店「黔莊 貴州牛羊粉」(新宿区百人町1-18-9)のライスヌードルも「米粉」と呼ばれていて、雲南米線より少し太く、コシがあった。また南方の食なのに、羊スープや酸菜スープがご当地の味らしい。
ところで、お気づきかもしれないが、中国広西チワン族自治区や貴州省などでは、ご当地ライスヌードルのことを「米粉(ミーフェン)」と呼んでいる。漢字は同じだが、福建省や台湾でよく食べる細麺の米粉「ビーフン」とは別物だ。
一方、雲南由来のライスヌードルは「米線(ミーシェン)」と呼ばれ、都内の「ガチ中華」の店では一般的なメニューになっている。四谷三丁目や湯島、池袋、西川口にある雲南料理店「食彩雲南」や、高田馬場にある中国発のチェーン「阿香米線」がそうだ。若い中国の人たちに米線が人気のため、これほど多く出店していたのである。
つまり、東京はいまや多様な中国西南地方のご当地ライヌードルが体験できる環境にある。
ではこのガチなライスヌードルは、香港人と同様に、日本人に支持されるのだろうか。
最近、ビャンビャン麺など、幅広でもっちりの中国西北地方の汁なし小麦麺が人気となっているが、米線の食感はそれとは別物である。何より米線の特徴はスープヌードルで、麺にスープがからみやすいことだ。
黄色いかん水中華麺に慣れた日本人に新感覚のライスヌードルを広めるのは、雲南由来、香港発の譚仔三哥なのかもしれない。