宇宙

2024.03.27

重力波で探る「ブラックホール連星の合体」研究の最前線

米国の検出器LIGOが捉えた重力波を発生させたブラックホール合体の様子をコンピューターシミュレーションで再現した画像(SXS, the Simulating eXtreme Spacetimes (SXS) project (http://www.black-holes.org))

NASAのウェッブ宇宙望遠鏡とは異なり、地上に設置された大型の重力波検出器では、美しい写真が撮れることは決してない。だが、時空自体の揺らぎである重力波の検出は、大型の恒星質量ブラックホールの合体や、おそらく巨大銀河の合体についても、宇宙の時間の経過とともに追跡調査できる数少ない方法の1つだ。

恒星質量ブラックホールは、天の川銀河(銀河系)のような顕著な渦状腕を持つ渦巻銀河の大半の中心にあると考えられている超大質量ブラックホールとは異なる。恒星質量ブラックホールは、宇宙で最も大きな質量を持つ、最も寿命が短い恒星から形成される。太陽の約20倍の質量を持つ希少なO型星は、一生の最期に「コア崩壊型超新星」を経てブラックホールになる。

もし恒星質量ブラックホール同士が互いを公転し合うようになり、最終的に合体すると、地上重力波検出器を使えば、遠方の宇宙論的距離にあるこれらのブラックホールを特定できる場合がある。

フランス・コートダジュール天文台の1組織、ニース天文台の重力波天文学者アストリド・ランベールは、自身のオフィスで取材に応じ、このブラックホールの合体を、銀河のようなはるかに大きな天体の合体のトレーサー(対象の挙動を追跡調査するための目印)として利用しようと考えていると語った。

アインシュタインの一般相対性理論は、質量が加速度運動することで時空のさざ波、すなわち重力波が発生すると予想している。だが問題となるのは、重力波を検出することだ。

天文学専門誌Astronomy & Astrophysicsに掲載が受理されたばかりの論文の筆頭執筆者で、コートダジュール天文台の博士課程学生トリスタン・ブリュエルと論文共著者の1人のランベールは、銀河同士の大規模な合体が巨大星団の形成を促進し、その結果として、合体する連星ブラックホールが形成されると見られると、論文の中で指摘している。



地上重力波検出器の国際観測ネットワーク「LIGO-Virgo-KAGRA(LVK)コラボレーション」の科学チームの一員であるランベールによると、天文学者らは、最大規模の連星ブラックホール合体と、銀河系のような銀河同士が合体する際に起こる急激な星形成とを結びつけて考えているという。LVKは、米国(LIGO)、欧州(Virgo)、日本(KAGRA)に設置された地上重力波検出器による長期の国際共同観測を行っている。

ランベールの研究チームは、巨大銀河の合体が活発な星形成と巨大星団の形成につながることを理解する目的で、銀河衝突のシミュレーションを利用している。巨大星団の内部では、ブラックホール同士のランダムな組み合わせが多数生じる可能性があるため、2つのブラックホールが合体した後、また別のブラックホールと合体すると、ランベールは説明する。

それでも、銀河系内からのブラックホール合体を検出することは見込めないと考えていると、ランベールは指摘している。銀河系内で起こるそのような現象を検出するのは、よほどの強運の持ち主でない限り難しいだろうと、ランベールは表現した。
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翻訳=河原稔

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