アジア

2024.03.25

インドの8%成長に覆い隠された「モディノミクス」の問題点

インドのナレンドラ・モディ首相。2024年3月1日に行われた政治集会で(Debajyoti Chakraborty/NurPhoto via Getty Images)

ドナルド・トランプとナレンドラ・モディを比較したとき、どちらが優れた自国経済の「セールスマン」なのか。言い切るのはなかなか難しい。

トランプ前米大統領が、利用頻度の低い経済データや図表、検証可能なトレンドラインを自分の意に沿うよう曲解し、政治的優位にはたらくよう利用する能力は、他に類をみないものだろう。だが、モディ首相がインド経済の展望を復活させたと14億人の国民を前に確信させた超人的な手腕を考えると、話は変わってくる。

モディ率いるインド人民党(BJP)がさらに5年間政権を維持しようとする中で、モディの政治スピンについて表立ってとやかく言うのは難しいかもしれない。4月19日から始まる下院総選挙は、BJPにとって絶好のタイミングだ。

株式市場が活況を呈し、中国市場に見切りをつけた外国人投資家がインドに活路を見出そうとしている中、インド経済は8%超の成長を遂げている。日本の投資家もインドに目を向けており、「チャイナ・プラス・ワン」理論を信じてインドの資産に分散投資する傾向が強まっている。

中国の習近平国家主席が国内問題を抱えていることで、インドにとって2024年は「棚からぼたもち」の年になっている。アジア最大の経済大国はデフレに見舞われ、不動産危機が深刻化して資本が流出している。

英資産運用会社M&Gインベストメンツのポートフォリオマネジャー、ヴィカス・パーシャドは「人々がインドに関心を寄せる理由はいくつかあるが、ひとつは単純に中国ではないからだ」と米ブルームバーグ通信に語った。「ここ(インド)では真の長期的成長が見込める」

もちろん習は習で、中国経済にこそ長期的成長が期待できると言うだろう。だが、インドの経済的優位性は統計に表れている。米ジェフリーズ証券は、2027年までにインドが日本に代わって世界第3位の経済大国になるとみている。今やインドの国内総生産(GDP)は約3兆6000億ドル(約545兆円)で、世界第5位だ。

世界の注目を集めるインドだが、輝かしいことばかりではなく、表に出ていない問題もある。

野村ホールディングスのアナリストは最近のメモで「光るもの必ずしも成長ならず。実質的な成長は報じられているほどではない」と書いた。その理由として、インドの成長は「主に公共投資の大幅な増加によって支えられており、一方で個人消費と民間企業の設備投資は依然として思わしくない」ことを挙げている。

また、重要な農業セクターは「低迷」している。公正を期すために言うと、野村が指摘するように、特定の産業セクターは確かに「底堅い」。米アップルのiPhoneの生産の7%超がインドで行われている事実だけでも明白だ。

しかし、8%の経済成長が期待されたほど多くの新規雇用を生み出していないという懸念が高まっている。
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翻訳=溝口慈子

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