食&酒

2024.03.26 12:30

ケイト・ブランシェットが語る、英国発の日本酒「Toku」と情熱ファーストの投資戦略

安井克至
Toku Sakéのブランド戦略は、ひと言でいえば「西洋世界が日本酒だと思い込んでいるもの」を見直し、解釈を一新することにある。

その製品、純米大吟醸「Toku/徳」は、ちょっとした贅沢品だ。

生産地は北海道。極寒の気候と独特の歴史・風土をもつ北の大地を拠点とする酒蔵は、日本の他の酒どころと比べて非常に少ない。それだけ北海道での酒造りには困難があったということだ。だが、数々の難題を乗り越えてきた蔵元で造られる日本酒は、特有のすっきりとしたキレと芳醇な風味、非常になめらかな後味が楽しめる。

「徳」はその典型といえる。

もっとも、8年間におよぶ試行錯誤を経て2022年に迎えた「徳」の発売は、日本酒市場を揺るがすことを想定したものではなかった。共同創業者のニューマンとピーター・ハドソンは、ただ特別な日本酒を造りたかっただけだ。まずは1500本限定で市場の反応を見ることにし、有名人との提携など考えてもいなかった。

優先すべき課題は、1本155ポンド(約3万円)と決して安くはないこの日本酒を、ワインと同じように手に取ってもらえる商品にすることだったのだ。

ブランシェットはいう。「それを問題と呼びたくはないが、課題があるのは事実だ。欧米の人々に、日本酒の楽しみ方を知ってもらわないとならない」「作法だけでなく、ペアリングもだ。和食といっしょに楽しむだけのものだと思っている人たちがおり、すれ違いがある」

幸い、データが描く展望からはToku Sakéの今後の成長が確信できる。日本酒の輸出量は2022年に空前の規模に達し、輸出総額は過去最高の約475億円を記録した。これは前年比18%増、10年前との比較では431%増という驚異的な伸びだ。

日本酒業界は爆発的な成長を遂げているわけではないかもしれないが、マイクロブームが起きていることは確実なのだ。

「私には投資家としてのプライドがある」とブランシェットは続けた。「日本酒という分野を信頼しているし、そこでは確かにマイクロブームが起きている。それだけでなく、私は日本酒の可能性を心から信じてもいる。ただし、(投資相手に)ふさわしい人々と適切な対話をする必要があり、道を切り開いていくことに興味を持たなければならない」

Toku Sakéのブランドとしての地固めも、思いのほかゆっくりだ。世界でも有数の知名度を誇る人物が参画したにもかかわらず、新商品の発表を急いではいない。大々的な発表イベントも、広告キャンペーンも、歌って踊るコマーシャルでメディアを席巻する様子もない。

「私たちの前進するペースをとても気に入っている。何かを発売するときに大半の人がとる行動とは正反対だと思うけれど」「とにかく、好きなことに時間とエネルギーを投資するのは本当に大切だと思う」とブランシェットは語り、こう言い切った。

「私たちは急がない。とても優れたものを手にしていると知っているから」

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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