正確にはプラスチックごみから変換したバニリンをフレーバーに使ったバニラアイスで、プラスチックのリサイクルについて問題提起するための作品だ。本物のアイスと同じ手順で製造されているものの、法的な認可がないため実際に食べることはできない。
作者はイタリア人アーティストのエレオノーラ・オルトラーニさん。英セントラル・セント・マーチンズの卒業制作で本作を発表したところ大きな反響があり、ヨーロッパを中心に世界各地で展示。3月には、循環型経済をデザインするグローバル・アワード「crQlr Awards 2023」(ロフトワーク主催)を受賞したことをきっかけに来日した。
なぜプラスチックからアイスクリームをつくろうと考えたのか。オルトラーニさんに、製作の背景や狙いを聞いた。
イタリア人アーティストのエレオノーラ・オルトラーニさん
──ギルティフレーバーズは、プラスチックごみのリサイクルに関するフラストレーションから生まれたそうですね。具体的に教えて下さい。
アートやデザイン業界ではプラスチックの廃棄がとても多いんです。プラスチックのリサイクルはプラスチックを粉砕して新たな製品に加工する方法が一般的なのですが、その過程でレジンなどの他の物質と一緒に混ぜて再利用する場合がほとんどです。
ただ、他の物質を混ぜてしまうと、2度目のリサイクルが難しくなります。このように、リサイクルできるはずだったものが、色々なものを混ぜることによってリサイクルできなくなってしまうことをダウンサイクリングと言います。
私は、デザイン業界でダウンサイクリングが当たり前になってしまっていて、プラスチックに対する理解が足りていないことがフラストレーションでした。そうした手法はもちろんソリューションのひとつではありますが、最終的には埋め立て廃棄される運命にある。
「それって、今の時間軸では良いことだけど、廃棄を先延ばしにしているだけで課題解決にはなっていないのでは?」と思ったんです。
──それで、リサイクルするための「器官」として人間の身体に注目したのでしょうか。
そうなんです。私はダウンサイクルするだけではなく、プラスチックとの新しい付き合い方を見つけなくてはいけないと思いました。今すぐには製造業でプラスチックの使用を止めることはできないので、それに代わる素材やソリューションが生まれるまでは、付き合い方を変えるのもひとつの手段だなと。
そこで、人間の消化システムに注目しました。自然界に目を向けたときに、実際にプラスチックを分解する生物が発見されていることを知り、同じように人間が分解することはできないのかと考えました。
──どんな生物なのですか?
大きく代表される具体例が2つ。発泡スチロールを食べると生分解可能な物質に変換するワックスワーム(ハチノスツヅリガの幼虫)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)を酵素で分解するイデオネラ・サカイエンシス(バクテリア)です。
ただ、人間の身体は幼虫やバクテリアよりも複雑で難しい。現実的な案として、身体の外でプラスチックを分解して、それを取り込むというプロセスを思いつきました。口に入るときにはすべてを消化できる状態になっているということです。