国内

2024.03.23 18:00

なぜ日本のベンチャーが小型ロケットを開発し、射場を建設するのか?

安井克至
東または南に海が開けている土地は、実は世界においても非常に限られているのだが、和歌山県の串本町はこれらの条件をすべて満たしている。そして周囲には民家もない。

スペースポート紀伊が建設されたこの土地は、関西電力が所有する原発の建設候補地だったが、建設を断念した関西電力によって町へ寄付された。その土地を串本町がスペースワン社へ20年間無償で貸し出したのだ。こうした経緯により、スペースワン社が運営するスペースポート紀伊はこの地に誕生したのだ。

民間による打ち上げを成功させるために

スペースワン社は、キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の共同出資によって2018年に設立された企業である。社長の豊田正和氏は、経済産業審議官、宇宙開発戦略本部の事務局長などを歴任。取締役の遠藤守氏は、H-IIロケットの開発を指揮したエンジニアであり、JAXA副理事長も務めている。そして文科省は同社へ3億2000万円の支援を2024年9月までに行うことを決定している。これは中小企業の技術開発を支援するSBIR制度によるものだ。

つまりスペースワン社は、民間による宇宙開発を軌道に乗せるため、官民によって構築された企業といえる。その必勝態勢の布陣は、もはやベンチャーというイメージからは遠い。

米政府やNASAでは、すでに20年前から同様な政策を開始し、莫大な補助金を提供することで民間宇宙開発を促進させてきた。その結果、米国の宇宙ビジネスは活況を呈しているが、一方で日本の宇宙産業の民営化においては、米国と比べて遅れを取っている。こうした局面にあるいま、カイロスなどが先陣を切り、一点突破することによって、日本の民間宇宙産業がさらに活性化することが期待されている。

政府は2024年2月、SBIR制度に続いて「宇宙戦略基金」を新設した。これは宇宙関連スタートアップなどに対して以後10年間で1兆円規模の補助金を提供するという制度だ。日本はこの施策によって宇宙産業規模を2030年代に8兆円まで増やそうとしている。それを達成するには日本の民間による宇宙開発を公共事業として捉え、あらゆる施策のスピード感をさらに高める必要があるだろう。

編集=安井克至

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