病院側の発表によると、16日に4時間におよぶ手術を行い、マサチューセッツ州ウェイマス在住の患者リック・スレイマンに遺伝子操作されたブタの腎臓を移植した。
この腎臓は人体との適合性を高めるため「有害なブタの遺伝子」を取り除いてヒト遺伝子を追加してあるほか、ドナーとなったブタの病原体にも不活化処理を施して感染リスクを排除したという。
病院によれば、スレイマンは2018年に腎臓移植を受けたが、昨年その腎臓が機能不全に陥り、透析治療が必要となっていた。2型糖尿病と高血圧も長く患っているほか、透析中に血管が血栓で塞がれて機能しなくなる重度の血管合併症を発症し、2週間ごとの入院を余儀なくされていた。
スレイマンは現在マサチューセッツ総合病院で「順調に回復」しており、移植臓器に拒絶反応の兆候がないか医師団が監視を続けるものの「もうじき」退院できる見込み。医師団は米紙ニューヨーク・タイムズに、移植された腎臓は機能しており、スレイマンは透析を受けずに済んでいると語った。
スレイマンは手術について「私を助けるだけでなく、生きるために移植を必要とする何千人もの人々にとって希望となる方法」だと述べている。
米医療資源・サービス局(HRSA)によると、腎臓は2021年に米国で最も移植が必要とされた臓器で、この年に行われた臓器移植手術4万1354件のうち60%近くが腎臓移植だった。
米国腎臓基金(AKF)によれば、腎機能障害を患う米国人は推定80万8000人。また、透析が必要な慢性腎不全の患者は約3700万人に上る。
ヒト以外の臓器を人体に移植する「異種移植」は近年ますます研究が進み、治験段階に移っている。米食品医薬品局(FDA)は異種移植を直接承認してはいないが、病気によって命が脅かされている患者が実験的治療を受けることを認めるFDAの「人道的使用(compassionate use)」条項に基づき、治験を許可している。
全米で年間数千人の患者が臓器提供者を待っている間に亡くなっており、医療関係者は異種移植によってこうした患者を救えると期待をかけている。
米ニューヨーク大学ランゴンメディカルセンターでは2021年、脳死患者に世界初のブタ腎臓移植を実施。アラバマ大学バーミンガム校も昨年、3例目となる同様の手術を実施し、異種移植が末期腎臓病の治療に役立つ可能性があるとの研究結果を発表していた。
(forbes.com 原文)