2004年に自身の名を冠したブランド「ヨシオクボ」をスタートし、現在はパリコレにも参加する世界的ファッションデザイナーの久保嘉男さん。
「見た事のないパターンやディテールを追求したい」という想いで服作りに挑み続け、デビュー20周年を迎えた今も独創性に溢れたスタイルを提案し続けている。
クリエイティブ街道を突き進む久保さんだが、先駆者ゆえの宿命か、独自のアイデアを他者に盗用された経験もあり、「ファッションロー(ファッションビジネスに関連する法律)」についても少なからず関心があるという。
そこで今回は久保さんを訪ね、経済産業省が発行する『ファッションローガイドブック2023』を元に、ご自身が体験してきたことや、ファッション業界に関わる法律問題についての考えを聞いた。
デザインの“パクリ”問題。線引きはどこ?
最初の話題は、ファッションデザインの権利について。
原:久保さんは独創的なクリエイティビティで世界からの評価を得られています。となると、そこでのクリエイティブの権利がしっかりと守られないといけないわけですが……。
海老澤:皆さんがまず思いつくのは「著作権」だと思いますが、著作権は創作物を保護する権利なので、実は洋服のような実用的なアイテムのデザインは、著作権で保護されるハードルが高いんです。
一方、登録をすることでデザインそのものを保護する「意匠権」という権利があります。ただ、この意匠登録は出願から登録されるまで、長い場合は1年くらい時間がかかってしまうこともあります。
久保:そんなに長いんですか。
海老澤:服の場合、年に2回シーズンがあるので、半年くらいで商品が入れ替わりますよね。ビジネスの流れが早く、出願をして登録される頃には服の販売が終わってしまう……ということも多いんです。
原:意匠登録はファッション業界のスピード感と相性がよくないんですね……。
海老澤:ではどの法律で保護しているかといいますと、いわゆる商品のデザインの“丸パクリ”を規制する、不正競争防止法第2条第1項第3号という法律でほとんどを保護しています。
原:“パクリ”の線引きはどこになるんでしょうか?
海老澤:基本的には、大きく「似ているか」と「元の商品を参考にしているか」の2つの要件から判断します。
原:久保さんは、「これ盗用されてないか?」と感じた経験はありますか?
久保:僕のところで、ボーダーの生地を分割して星のかたちに切り替えた、特徴的なTシャツをたくさん作ってきたのですが、香港に行ったとき、目の前から同じTシャツを着た人が歩いてきたことがありました。よく見ると、星が生地の切り替えじゃなくてプリントで……。
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古着のリメイクは、安易に手を出すと危険
続いて、近年特に多く語られるファッションのサステナビリティと法律の話。
原:続いてのトークテーマは、サステナブルとファッションローとの関係についてです。
海老澤:最近、注目を集めているのは「グリーンウォッシュ」ですね。本当はサステナブルな商品ではないのに、あたかもそうであるかのように広告などに表示して消費者を欺くもので、海外では法規制の動きが活発化しています。
久保:僕ね、最初はサステナブルという言葉が嫌いだったんですよ。というのも、よくわからなかったんで。
でも2年くらい前から、バングラデシュの工場に残った商品をデザインでアップサイクルする「PHOENIX LAB. PROJECT」というプロジェクトに参加させてもらってから、サステナブルの勉強をして、今はすごく大切なんだなとひしひしと感じています。
久保:そこで気になったのが、古着をリメイクすることは法律的にどうなのかなって。
海老澤:実は、リメイクやアップサイクルは、権利的には結構危ういんですよ。例えばグラフィックが施されたTシャツを例にすると、そのグラフィックに著作権が発生している可能性がありますので、それを加工して販売すると著作権の侵害になるリスクがあります。
他にも、古いブランドもののコートなどを加工して、ブランド名がついたタグなどをそのままつけて販売することは、そのブランド名が日本でも商標登録をされている場合、商標権侵害になります。
原:サステナブルという言葉で安易に手を出すと、実は何らかの権利を侵害する可能性があるということですね。
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海外とのビジネスで、必要なスタンスは
最後の話題は、海外でのビジネスの際の法律の考え方や契約に関して。
原:海外でのビジネスを行う際に知っておくべきことはありますか?
海老澤:海外だと法律が違うのはもちろんですが、契約のスタンスも違うのかなと思います。
相手にもよりますが、海外企業から提案される契約には、こちらに不利な条項が入っていることも少なくないですね。その点を踏まえて、契約内容をきちんと確認して交渉することが重要です。
久保:僕は長いことやってるので慣れましたが、本当はこうしたいと主張したくても、相手から嫌われるんじゃないかと心配しがちになる気持ちもわかります。
海老澤:気持ちは理解できますよね。ただ、海外では交渉することは割と普通のことで、そこまで心配されなくても大丈夫なのではないかと思います。
原:海外とも取引できる越境ECなどはどうでしょうか?
海老澤:最近すごく増えているのが、直接自社で越境ECをやる場合です。その場合は、購入者がいる国の法律が関わってくるので、細心の注意が必要です。
返品規定や消費者契約も基本的にそれぞれの国のものが適用されるでしょうし、商標権の問題も出てきます。自社のブランド名がその国ですでに別の誰かに登録されていれば、加害者になってしまうことも……。
原:契約社会である海外とビジネスを行うのであれば、最低限覚えておくべきポイントはチェックしておかないといけませんね。
久保:アパレル業界って「こうらしい」「ああらしい」って曖昧な状態のまま進んでしまうことが多くて、それがビジネスをストップさせてしまったり、変なところに着地してしまうことも大いにあるので、僕もこの経産省さんのガイドブックをしっかり見てみたいと思いましたね。
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『ファッションローガイドブック2023』
ファッション分野の案件を取り扱う弁護士・弁理士が中心となって、経済産業省によって発行された『ファッションローガイドブック2023』 。
ファッションビジネスを展開するにあたり、いつどのようなタイミングで、自分が被害者、あるいは加害者になるかもしれない。
そうならないためにも、『ファッションローガイドブック2023』を常に携え、迷った時にはページを開いてみてほしい。
そこにはきっと、あなたの悩みを解決する術が記されているはずだ。
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経済産業省 商務・サービスグループ
ファッション政策室 ファッション政策担当
bzl-fashion_policy@meti.go.jp
※本記事はライフスタイルメディアOCEANS(オーシャンズ)からの転載記事です。