セレクトショップの草分けとして知られる「ビームス」。その顔役である執行役員 シニアクリエイティブディレクターの土井地 博さんは、長年PRに携わってきたコミュニケーションのプロフェッショナルだ。
ファッション業界の中心でキャリアを重ねた土井地さんにとって、ブランド側が求める情報発信も、それを上手に伝える手段や方法も、どちらも熟知するところ。
そこで今回は、経済産業省が発行する『ファッションローガイドブック2023』からコミュニケーションに関する「ファッションロー(ファッションビジネスに関連する法律)」をピックアップし、土井地さんがそれらとどう付き合ってきたかを尋ねた。
後出し厳禁。二次使用は“最初に”合意を得る
まずは、広報や販促業務で外部クリエイターなどに仕事を依頼する際に気をつけること、というテーマで会話をスタート。
原:ビームスだと、まさに土井地さんがそういったことをいちばん長くやられていたんじゃないですか?
土井地:そうですね。23歳の時にPR担当を任せられて、15年以上そういう仕事に就いてました。当時のファッションメディアといえば雑誌がメインだったので、スタイリストやカメラマン、編集者と話をしながらクリエイティブを形作ることが主でしたが、インターネットの普及によって、成果物の二次使用についても意識するようになりましたね。
海老澤:ファッションローの観点だと、クリエイターたちと仕事をするときには、口頭で内容を伝えるだけでなく、きちんと契約内容を書面で交わすことがトラブル回避のために重要です。
二次使用もポイントのひとつで、カタログ用に撮影した写真データを、別のECサイトやSNSなど色々なかたちで使ったりする場合、その点についてもきちんと許諾を取っておくことが欠かせません。
土井地:その辺はチームでも必ず会話として出すようにしてますね。
海老澤:そういったものが、スタッフの方との日々の会話で出てくるというのは素晴らしい環境ですね。
原:プレーヤーだった時と管理者になった今とで、変わった部分はありますか?
土井地:気を許している仲間との仕事では「なんでもいいですよ」と言ってもらっていたものが、ネットの普及もあって、10年後、20年後にもきちんと残る仕事をしようという意識に変わっていきました。
原:『ファッションローガイドブック2023』を見ていただく方たちは、まさに10年後、20年後にも残る前提で、ブランドを起こしたり、クリエイティブを発揮することを志すはずなので、同じように意識を高く持っていられるかということが大事ですね。
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SNSに潜む罠。「リポスト」は著作権侵害になり得る
3人の会話は、SNSでのコミュニケーションを中心とした内容に。
原:コミュニケーションというと、SNSやデジタルプラットフォームが欠かせないと思いますが、この辺りで注意すべきことはなんでしょうか?
海老澤:たくさんありますが、まずは写真の使用ですよね。気になったCDのジャケットや雑誌の写真をSNSに投稿することは、著作権侵害になる可能性があります。
そのほか、例えば、インスタグラムのリポストにも注意が必要ですね。外部アプリの仕様にもよりますが、元の投稿をスクリーンショットするかたちでリポストすることは著作権侵害になる可能性がある行為なんです。
土井地:なるほど、学びが多いですね。一般的に社会に出てきてからこういったことを学ぶきっかけはあまりないので、このガイドブックを見ながら、仲間内でそんな会話をするのもいいかもしれないですね。
原:SNSをビジネスにしている方もいらっしゃいますが、最近、その辺りの法規制がアップデートしたとか。
海老澤:ステルスマーケティング規制というのが2023年の10月からスタートしています。商品開発やプロモーションなどを担当する従業員が自社の商品の投稿をする場合や、会社から依頼を受けたインフルエンサーが商品の投稿をする場合は、きちんと会社のPRであることを伝えなければいけないということが大きな柱になります。
原:「#PR」をつけて投稿すればそれはクリアできるんですよね?
海老澤:「●●社からご提供いただきました」といった文章でも大丈夫ですよ。
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ボーダーレスな社会で行うコミュニケーションとは?
最後の話題は、日本という枠から飛び出したコミュニケーションのこと。
原:日本を飛び出すというと、海外や最近ではデジタル領域など色々な形がありますが、まず海老澤先生から注意点を教えていただけますか。
海老澤:まず海外とコミュニケーションをする場合には、契約へのスタンスが違うので注意が必要ですね。また、適用される法律の内容や税制なども各国で違う可能性があるので、気をつけておきたいポイントですね。
土井地:ビームスが初めて海外出店をしたのが20年くらい前になりますが、今では多くの国に出店していて、海外への意識が高まりました。
法律だけじゃなく文化が違うので、相手のことを重んじて理解することが大前提だと考えています。お店のオープン時間が風水によって決められたりすることもあるんですよ。
海老澤:土井地さんがおっしゃった通り、そもそも文化が違うので、日本では良かれと思った広告表現が実は海外ではNGだったということもありますよね。
土井地:国によって法律や考え方が違うというのはありながらも、世界がつながっているじゃないですか。ひとつの船みたいな話なので、いろんな乗員がいたりすることを踏まえると、お互いに相手のことを理解することが大前提で、会話を高めたりすることが、もっと必要な時代になってきましたよね。
原:ここまでは実態のあるもののボーダーを超えていく話でしたが、ビームスではメタバースでの取り組みなどは行われていますか?
土井地:メタバース空間の中で店舗を出したり、イベントをやったりすることも増えています。ひとつの“国”というように考えてみると、いろんな意味で我々が想像し得ないコミュニケーションが広がると思うので、面白いことを消費者の方に伝えていきたいと思います。
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『ファッションローガイドブック2023』
ファッション分野の案件を取り扱う弁護士・弁理士が中心となって、経済産業省によって発行された『ファッションローガイドブック2023』。
ファッションビジネスを展開するにあたり、いつどのようなタイミングで、自分が被害者、あるいは加害者になるかもしれない。
そうならないためにも、『ファッションローガイドブック2023』を常に携え、迷った時にはページを開いてみてほしい。
そこにはきっと、あなたの悩みを解決する術が記されているはずだ。
[問い合わせ]
経済産業省 商務・サービスグループ
ファッション政策室 ファッション政策担当
bzl-fashion_policy@meti.go.jp
※本記事はライフスタイルメディアOCEANS(オーシャンズ)からの転載記事です。