倒置法を用いて付けられた英題を邦題でも絶妙に取り入れ、「彼女は」という言葉で締めることで、余韻を感じさせる印象深いものにしている。曲は、マイク・ニコルズ監督の映画「卒業」(1967年)でも使用されていたので、記憶に残っている人も多いことと思う。
2016年に単行本で刊行された原作小説「四月になれば彼女は」では、この曲が登場人物の1人によって歌われ、物語にもアクセントを与えている。当然、映画のなかでもと考えていたが、実は曲もサイモン&ガーファンクルも登場しない。とはいえ、「彼女は」というタイトルが持つ「その先」を感じさせる妙(たえ)なる余韻は、本編でも貫かれている。
映画「四月になれば彼女は」では、主人公や登場人物の現在や過去が回想形式で語られていく。加えて謎を秘めた手紙やとりわけ美しい景色なども登場し、基本的には会話劇であるにもかかわらず、最後まで興味を繋ぎながらエンドクレジットまでたどり着く。
誤解を恐れずに言えば、この作品の巧緻に長けた構成が、観賞した後でもずしりと心に残り、近頃、あまりお目にかかることの少なくなった大人の「恋愛映画」を成立させているのだ。
「恋愛がない」ことを書くのだ
映画の冒頭は、水面が鏡のように空を映すボリビアのウユニ塩湖から始まる。監督の美意識が横溢する風景描写のなかに、この地を旅する伊予田春(森七菜)が映し出される。そして、彼女がかつての恋人である藤代俊(佐藤健)に書いた手紙がナレーションされる。物語への期待も高まる美しい場面だ。(c)2024「四月になれば彼女は」製作委員会
春からの手紙を受け取った藤代俊は、婚約者である坂本弥生(長澤まさみ)と結婚の準備を進めていた。すでに同居もしていた2人だったが、弥生の様子にはどこかぎこちないものが感じられ、精神科医として多忙な日々を送っていた俊は、どうやらそれには気づいていない。
(c)2024「四月になれば彼女は」製作委員会