胃と脳に直接訴えかけるウマさ
大樹さんが病に倒れてからおよそ1年後の2021年12月、ミドリストアはスパイスカレー専門店としてリニューアルオープンする。ただ、新生ミドリストアの主力メニューとなるサオジカレーは、この時まだ登場していない。隆志さんは、慣れない店舗運営と並行して、メニュー開発に励む日々を送っていた。
ある日、情報収集を兼ねて海外のサイトをチェックしていたところ、「Saoji Chicken Curry」という見知らぬカレーレシピが隆志さんの目に入ってきた。好奇心旺盛な隆志さんは、気になって早速つくってみたところ、その美味しさに衝撃を受ける。今まで食べたことのないほど濃厚でスパイシーなカレーだった。
サオジカレーの特徴である旨味をたっぷりと含んだソースと油分は、絶妙なマサラバランスのおかげで見た目ほどのくどさは感じられない。それどころか、スパイスの官能的な香りと舌をジワリと刺激する辛さが相まって、スプーンを口に運ぶたびに胃が喜んでいるように感じられたそうだ。
理屈ではなく、胃と脳に直接訴えかける類の旨さだった。「これはいける」と隆志さんは直感した。
サオジカレー。ジーラライス、ロティとともに
隆志さんはサオジカレーについてさらに調べようと、ネットや本にあたってみるも情報はあまり出てこなかった。日本語はもとより英語でも、サオジカレーについての記事はそう多くはなかった。出てくるのは現地のマラーティー語の情報ばかりだった。
それでも翻訳アプリなどを頼りにレシピを読み、隆志さんは度々試作を繰り替えしてはInstagramにタグをつけてサオジカレーをアップしていた。そうすると、嬉しいことにポツポツとコメントがつくようになった。それは思いもよらずインドからのコメントだった。
「サオジカレーは言ってみれば、福岡の長浜ラーメンのようなものかもしれません」と隆志さんは語る。
「サオジカレーはもともとインドの中央に位置するナーグプル(Nagpur)というごく一部の地域で作られていた郷土料理のようなものなんです。もしインドの方が現地で長浜ラーメンを再現して作っていたら驚きませんか? 逆にナーグプルの人からしたら、遠く離れた日本でせっせとサオジカレーを作っている日本人が興味深く映ったのかもしれません(笑)」