「生成AIの力を最大限に引き出し、無駄なPoCにサヨウナラ」。GenerativeXの会社HPに記された言葉だ。
2023年6月に創業したGenerativeXは、企業の経営・業務効率化の課題を生成AIの活用で解決するスタートアップだ。創業して間もないが、取引先には通信、不動産、産業機械、エネルギーなど、さまざまな業界のTier1企業が多く名を連ねる。
大手製薬会社の研究開発部門では、情報収集業務に生成AIを導入。それまで1カ月の期間を必要としたデータ分析業務がわずか10分で完了し、大幅なコスト削減と、高頻度の仮説検証が可能となる見込みだ。
こうした実績で企業のIT担当者から注目されているGenerativeX 。AI活用のDXを手がけるサービスも数多くあるなかで何が注目されているのか。
ビジネスの知識があってこその生成AI
GenerativeXの取引企業が最も驚くのは、圧倒的なスピード感だ。代表取締役CEOの荒木れい(写真左。以下、荒木)は次のように語る。「企業が生成AIを活用する際の課題のひとつが、外部ベンダーに丸投げする冗長なPoCだと考えています」
一般的に、生成AIを自社で活用する場合、多大な時間とコストがかかる。導入プロジェクトの多くは「PoC」といわれる実証実験を経るのが一般的で、これに半年〜1年かかることは珍しくない。
「PoCというステップは確かに重要ですが、生成AIではプロンプト(出力を促す文字列)を書けば一瞬で試せることが多くあります。私たちはプロンプトを活用した超アジャイルなPoCを行うので、お客様と共により多くの施策を試みます」(同)
同社の考えの背景にあるのは、生成AIはエンジニアしか取り扱えない技術ではなく、ビジネス側が使い方を習得すれば企業の現場でさらに活用が進むという確信だ。荒木と共にGenerativeXを創業した取締役CSOの上田雄登(左ページ写真右。以下、上田)はこう語る。
「生成AIは、いずれパソコンやスマホのように使い手は技術そのものを理解せずとも、使い方がわかれば十分に活用できる」
上田は東京大学の松尾研究室で学んだ経験をもつ。多くのAIスタートアップ企業が登場している環境で、AIへの高い期待を肌で感じる一方、忸怩たる思いも抱えていた。
「AIの技術を知っているだけでは、ビジネスの本質的な課題を解決することはできない。しかし、日本ではビジネスと技術が分離されているために企業側の技術理解が乏しく、AIを必要以上に難しくとらえているのではないか」。
荒木と上田は東京大学大学院で学んだ同級生で、共にプロフェッショナルファームでのビジネス経験がある。
「生成AIの登場で企業課題もスピード感をもって解決できるようになった。双方の知識があってこそ、生成AIの価値を企業に伝えられると考えています」(荒木)
こう語る彼らが重視しているのは徹底した現場理解だ。まず現場の業務をつぶさに観察し、ときには現場の社員と飲み会をして親交を深めることもある。こうした距離感の近さは企業側も「寄り添ってくれる」という安心感につながっているという。
「顧客の自走化」に焦点を当てる
企業の課題を初回にヒアリングしてから、1〜2カ月で業務に最適化された生成AIソリューションを開発する。このスピード感を実現できる理由は「体制」にある。「一般的なプロジェクトは、ビジネス側と技術側の担当者、その間をつなぐプロジェクトマネジャー(PM)が存在する体制。
しかし当社ではコンサルタントが顧客の折衝を行い、生成AIのコードも書く。ひとりがビジネスと技術両方を担当するのでPMも存在しません。生成AIのプロジェクトはハイブリッド人材が担当するのがベストだと考えています」(荒木)
3人分の役割を1人が果たすので、時間もコストも削減できる。荒木、上田含め、同社のコンサルタントはビジネス側の経験を積んでおり、生成AIのコードも書ける人材を揃える。
さらに生成AI技術を最大限に生かした仕組みを構築するだけでなく、「顧客の自走化」にも焦点を置いている。
「企業の担当者が生成AIの使い方を理解し、プロンプトを書けるようになるよう、講習なども実施します。使い方を理解できれば、社内のほかのプロジェクトへの応用も可能になる」(上田)
この考えは、生成AIの活用を考える企業に響いている。
「生成AIを活用しやすい業務は自動化や効率化、要約というイメージですが、実はどんな業務にも活用できます。自走化ができれば、社内業務のボトルネックの部分に生成AIの技術を当てはめていくことができるようになるでしょう」(同)
「生成AIで強くなれ」
企業の現場に生成AIが当たり前に活用されると、どんな未来が訪れるのだろうか。「マネジャーの役割をAIが果たすこともありえます。管理職のなかにあるエッセンスを抽出すれば、AIが相手に合った伝え方で教育したり、仕事のフィードバックをすることもできる。人と人の間にAIが入ることで人間関係は円滑になり、組織運営もスムーズに行われるでしょう」(上田)
すでに大手金融機関には、上司に代わって新人の営業担当にセールスや商品の組み合わせをアドバイスする「課長AI」も提供している。AIにフィードバックされる言葉は心にしみるのだろうか。
「人が会社を辞める理由の多くは人間関係。人間関係で摩擦が生じる部分をAIにフォローしてもらうと考えてみましょう。人間は思った以上に情報を正確に伝えるのが苦手。各自のバックグラウンドや知識、忙しさや注意力も違いますし、感情も入ります。また、企業のMVVを浸透させるにも、AIを活用すればよりスムーズに浸透できるのではないでしょうか」(荒木)
人のマネジメントや理念の浸透は企業経営において非常に重要な要素だ。生成AIの活用はもはや技術側の仕事ではなく、ビジネスを運営する側が旗を振って進めていくべき分野だといえる。
「日本企業は生成AIの技術を使って強くなるべきだと考えています。だからこそ、多くの企業に生成AIという武器を渡し、使い方を伝え続けたい。生成AIを使いこなせる人材をひとりでも増やすことが私たちの使命なのです」(荒木)
GenerativeX
https://gen-x.co.jp/
あらき・れい◎GenerativeX代表取締役CEO。東京大学大学院工学系研究科修了。新卒でJPモルガン証券入社。投資銀行部門でM&A、資金調達などのアドバイザリーに従事した後、飲食店DX事業のスタートアップ・売却を経て、GenerativeXを創業。
うえだ・ゆうと◎GenerativeX 取締役CSO/共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻修了(松尾研究室)。新卒でYCP Solidianceへ入社し、経営コンサル業務に加えてAIコンサルや投資先のマネジメントに従事。松尾研究所にて経営企画業務を経験した後、GenerativeXを共同創業。