今回、東京で働く若者たちの苦悩を描いてきた覆面作家の麻布競馬場、キャリアSNSを手がけるYOUTRUSTの岩崎由夏、女性向けキャリアスクールを運営するSHEの福田恵里、哲学者の堀越耀介、キャンピングカーを通じた新しいライフスタイルを提供するCarstayの宮下晃樹が集結。独自のキャリアを切り開いた体現者でありながら、異なる分野で働き方やキャリアと密接した活動をしている同世代(1989〜92年生まれ)の5人が、これからの「仕事の幸福論」を語り合った。
麻布競馬場(以下、麻布):僕は昼間にサラリーマンをやりながら、夜間に作家として活動しています。これまで2つの作品(『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』『令和元年の人生ゲーム』)を出したのですが、僕の目から見れば、この場に参加している皆さんは、僕が手がけている「タワマン文学」(タワーマンションなどを舞台に、都会に疲弊しつつも、都会で生きるというアイデンティティから逃れられない人々を悲哀まじりに描く分野)の第1世代の人たち。バブル崩壊前後に生まれた世代って、親の不安感の影響をすごく大きく受けていて、地元の進学校から一流の大学を出て、大きい会社に入って、高収入でタワマンのような高級住宅に住むという、親世代の成功パターンをなぞることを期待されてきたと思うんです。ただ、ここにきて不都合が起こっている。
例えば、東京で大企業のサラリーマンをやってたどり着く年収って1000万円ぐらいですよね。税金やNISA/iDeCoで資産運用している分を除くと、可処分所得は600万円くらい。月換算だと50万円で、仮に家賃に15万円を使うとしたら、僕が住んでいる麻布だと1Kぐらいの狭い部屋しか住めない。そこで気づくんです。親の言った通りに頑張ってきたはずなのに、こんなもんか、なんかイケてないな。在学中や社会人数年目のうちに起業して、資本家の側に行けていたらって。
宮下晃樹(以下、宮下):確かに東京だとそうかも。共感できるところがありますね。
麻布:Z世代と呼ばれる人たちはタワマン文学の第2世代と思っていて、彼らは結構、僕ら第1世代を否定的に見ているんですよね。都会に依存するのはダサいし、学歴や肩書なんてどうでもいいし、タワマンなんて興味ないって。かといって、単一的なゴールが失われたことで、自分はどこに行ったらいいかわからないという新しい悩みが彼らにもある。何者かにならなくちゃいけないけど届かなかった第1世代と、どこがゴールなのかがわからない第2世代。共通点は、キャリアの迷子になっていることです。