2月、当講座の設立を記念したシンポジウムが開催され、東京大学の林 香里(理事・副学長)、山中俊治(特別教授)、ソニーグループの北野宏明(執行役 専務 CTO)などが登壇。アート、テクノロジーおよび企業活動を通した社会課題への向き合い方や、異分野共創に関する議論を交わした。
その中で浮かび上がってきたクリエイティブ・フューチャリストの人物像について、当講座を主宰する東京大学大学院情報学環 筧 康明教授に話を聞いた。
クリエイティブ・フューチャリストとは、アート・デザイン・⼯学・人文社会学などを越境し、批評と創造の両輪で問いを炙り出し、社会に実装しながら未来を先導する人物だ。
「フューチャーリストは未来を見通すことがゴールですが、クリエイティブ・フューチャリストは動きながら未来を創っていくというイメージです。従来であれば、既存の課題に対して未来を見定め、そこへ向かっていくことが一般的でした。ところが昨今、複雑な社会環境により未来を見通すことが難しくなった。
批評的な眼差しでそもそもの問いを炙り出し、動きながら即興的に未来を創るアプローチが必要になっています。現在と未来、抽象と具体、スペキュレーションとアクションを行き来しながら、時に学問や職種を越境し、他者と共創して未来を切り拓かねばなりません」
昨今、民族紛争、気候変動、テクノロジーの劇的な進化などにより、不確実性が高く、将来の予測が困難であることは承知の通りだ。それに付随して人同士、人と自然、人とテクノロジーなど、あらゆるものの分断が進んでいる。
例えばインターネットは繋がることを志向してきたが、繋がりやすいところだけで固まり、結果的に分断を生んでしまっている。生活環境においても、住みやすさを追求してきた結果、地域間の格差が生じたり、人と自然に距離が生まれるなどの分断が見受けられる。
「私は異なるものを結び付けたり、その関係を明らかにしていくインターフェイスデザインやインタラクティブアート・デザインの研究をしてきました。例えばAとBのインタラクションをデザインする場合、まずAとBを変わらぬ要素として置いて、その間の入出力を考えることが一般的ですが、それぞれは影響し合っています。
さまざまな物事が絡み合っていく中で、人と自然、テクノロジーと人などの二項対立を超え、新しいパースペクティブが拓けるのではないかと。社会の中で繋がりにくいものを繋げたり、繋がりの中で生じる新たな問題を見つけ出しながら、複雑に絡み合う社会問題を解きほぐしたい。そのように考えています」