クリエイターの仕事はこれからどうなっていくのだろうか。AIの脅威から保護することはできないのか。AIとクリエイターとの関係性について、SXSW 2024のセッションから考察したい。
「クリエイターもAIエコシステムの一部であるべき」
生成AI業界の話題の中心にあり続けるオープンAI。同社でChatGPTの責任者、そしてコンシューマー担当副社長を務める人物が、ピーター・デン氏である。2007年から10年近くフェイスブックに在籍し、メッセンジャーなどの開発を指揮した後、14年からはインスタグラムの初代製品責任者を務めた。デン氏は、「AIと人類の共進化」をテーマにしたセッションに登壇。開始1時間以上前から長蛇の列ができ、会場に入れないカンファレンス参加者が続出した。注目度の高さがうかがえる。
「基本的に人間は野心的な生き物であり、追い求めたいビジョンを持っている。過去のテクノロジーは、人々がより多くのことをするための障壁を取り除いてきた」
デン氏はこのように前置きした上で、AIについて「個人に選択肢を与えてくれるもの」「あなたのビジョンの実現を加速させるもの」と評価。何に活用するかは人それぞれで、専門スキルがなくとも、少ない人数でより多くのことができるようになるとも語った。一方で、少人数でも大きなことができるため、結果的に大企業であることのメリットが小さくなることを示唆。「企業の規模はより小さく、数は多くなっていくだろう」との見通しを示した。
筆者は5年ほど前、一部のプラットフォーマーを除いて、組織の規模は小さくなっていくであろうと予測した。その予測がいよいよ現実味を帯びてきたわけだ。生成AIを活用することで、小さな組織にできることが多くなり、精度も高まる。一方、比較的規模の大きな企業にとっては、少ない人数でも仕事ができるのだから、人員を整理しようという発想につながりかねない。事実、米国では今年に入ってからもレイオフの報道が相次いでいる。
オープンAIはこれまで、ネット上のクリエイターの作品を機械学習に利用してきた。そのことから、クリエイターやアーティストの一部には、オープンAIを必ずしも快く思っていない人がいるとされる。
デン氏はオンライン上の作品を機械学習している点ついて、「(クリエイターやアーティストは)できる限り(AIの)エコシステムの一部である必要がある」と明言。その理由として「(作品を制作する際、誰もが)それ以前に登場した何人かの芸術家からインスピレーションを受けている」と説明した。つまりAIもクリエイターおよびアーティストも、誰かの作品を「学習」しているという意見だ。
一方で、機械学習された側に報酬が払われるべきかとの問いに対しては、明言を避けた。SXSWには多数のクリエイターが参加している。「報酬が払われるべきか」との問いが出た後、会場からは歓声や叫び声が相次いだ。筆者には、クリエイターたちの「当然報酬を払ってくれるんだろう。そうでなきゃおかしい」との心の叫びに感じられた。