チャットボット「M」の失敗
そして、FAIRの最も注目を集めたプロジェクトとして知られるのが「M」と呼ばれるチャットボットで、フェイスブックは2015年8月に大々的な宣伝のもと、カリフォルニア州の約2000人限定でサービスをリリースした。Mはあなたの母親に花を届けたり、レストランを予約したりするような、どんな仕事でも代行してくれる「奇跡のアシスタント」と謳われていた。その当時、この話が出来過ぎだと感じたとしたら、それは実際そうだったからだ。フェイスブックのAIは少数のユーザーのリクエストを処理してはいたが、タスクの大半は人間が花屋に電話をかけたり、レストランの予約をしたりとアナログな方法で行っていた。
「ソフトウェアは、人々が望むことの80%を行うことができるという話がありますが、本当にコストがかかるのは最後の20%だとされています。しかし、Mの場合はそれよりももっと悪かったのです」とルカンはフォーブスに語った。
Mの目的は、人々がチャットボットに何を求めるかを見きわめるための入念な実験を行うことだった。しかし、フェイスブックは2018年に正式にこのプロジェクトを終了させた。「Mの試みは、FAIRが立ち上げ当初から重点を置いてきたリサーチとプロダクト開発の中間にあるものの1つの例だった」とシュローファーは話し「最も悔やまれることの1つは、データの学習用のGPUチップが少なかったことだ」と付け加えた。
クローゼットの中の汚れ物
これまでで最も大きなFAIRの業績の1つである昨年2月に発表したLLaMA(ラマ)は、OpenAIのGPTやグーグルのLaMDA(ラムダ)やPaLM(パーム)に対抗する強力な大規模言語モデルだ。しかし、ライバルとは異なり、LLaMAの次世代モデルであるLLaMA 2(ラマ2)はオープンソースのモデルだ。「社内での大議論」を経て、ザッカーバーグから直接、決定が下されたとルカンは話す。この決定によってメタとFAIRは、自社が公開したコードをユーザーや外部の研究者が利用できるようにする「オープンソースのアプローチ」の最も声高な支持者の1人に位置づけられた。
「我々は、すべてのプロジェクトをオープンソースで始めようとしています。物事をクローズドにしておくと、汚れた服をクローゼットの中にしまい込んでおくことになりがちです」と、FAIRのピノーは話す。しかし、オープンソースはFAIRの重要な柱ではあるが、彼女は、同社がプロジェクトごとにアプローチを決めていると付け加えた。例えば、メタの音声生成のためのAIモデルのAudiobox(オーディオボックス)は、利用を認められた研究者のみに公開されている。
オープンソースを巡る議論はテック業界を通じて白熱したものとなっている。このアプローチを推進するメタやHugging Face(ハギング・フェイス)、Mistral(ミストラル)のような企業が、透明性を重視する一方で、OpenAIやグーグルのDeepMind(ディープマインド)のような企業は、厳しく管理されたクローズドな環境が安全性のリスクを軽減し、悪質な行為者による悪用を防ぐことができると主張している(編集部注:ディープマインドは今年2月に発表した最新のAIモデル群のGemmaを、それまでの姿勢とは異なるオープンソース型のモデルにした)。