「オープンソースAI」を推進
ルカンによると、メタはここ1、2年でAIを新たなプロダクトの中核に据えるようになったという。同社は、以前は画像認識のようなタスクに重点を置いていたが、生成AIのブームを受けて、その方向に舵を切っている。メタが2023年2月にリリースしたOpenAIのGPTに匹敵する大規模言語モデルのLLaMA(ラマ)は、これまでShopify(ショッピファイ)やDoorDash(ドアダッシュ)などのAIツールに採用されている。FAIRは、AIの安全性を巡る議論の中で、オープンソースを支持する陣営から大きな支持を集めており、すべてが計画どおりに進めば、さらに多様なプロダクトがオープンなコラボレーションの中から生まれそうだ。この流れは、マーク・ザッカーバーグが数十億ドルを投じて推進するメタバースにおいても期待される。
メタのAI研究のバイスプレジデントを務めるジョエル・ピノーは「メタバースが究極の没入型の生成AIのエクスペリエンスになることは確実です」と語る。メタバースの没入感あふれる世界は、AIが生成したキャラクターや、大規模言語モデルを用いて作成された会話で満たされている。
しかし、ザッカーバーグは、それが実現するのが10年先になるかもしれないと述べている。そして現状のメタバースは、容赦なく嘲笑され、失敗だと言われている。そんな中、メタのバイスプレジデントのピノーは「マーク(・ザッカーバーグ)は今でも長期的な視野から巨大なビジョンを描いていて、AIの可能性を信じているのです」と語った。
フェイスブックのAI開発の原点
ザッカーバーグとその当時のフェイスブックのCTOのマイク・シュローファーは、2013年12月にFAIRを立ち上げ、ニューヨーク大学のコンピュータサイエンスの教授であるルカンをプロジェクトのリーダーに起用した。ザッカーバーグとシュローファーは当時、コンピュータ科学者のアレックス・クリジェフスキーが生み出した画期的なニューラルネットワークのAlexNet(アレックスネット)の画像認識と分類の技術に魅了されていた。同社のAIチームはその頃、フェイスブック本社の16番ビルでザッカーバーグの隣に座っていた。2022年にCTOを退任したシュローファーは、そのことが「AIが会社の将来にとっていかに重要であるかを示すシグナルだった」と語った(FAIRの他の拠点には、ルカンが拠点とするニューヨークやモントリオール、テルアビブ、ロンドンがある)。
その後の数年でFAIRは、いくつかの進歩を遂げた。2016年に発表した機械学習フレームワーク「PyTorch」は、開発者が生成AIモデルを構築するのに役立った。「FastMRI」と呼ばれる技術は、その名のとおりAIを使って医療現場のMRIを最大10倍高速化した。また「Few-Shot Learner」と呼ばれるシステムは、ワクチンの偽情報のような有害なフェイスブックのコンテンツを、迅速に除去することを目的としていた。