最近の若者はお酒を飲まない、付き合いが悪い、なんて言われていたのはもう昔の話で、今あえて飲まない選択をする中高年層が増えています。その背景にあるものとは。食生活の変化や飲まない生き方で人生において得られるものを、料理家として食やライフスタイルに関わる立場から解釈してみたいと思います。
「ソバーキュリアス」とは
ソバーキュリアスとは「sober(シラフ)」と「curious(好奇心)」が組み合わさった造語で、好奇心という言葉からも、禁酒や断酒といった決してネガティブなニュアンスではなく、「シラフを楽しむ」というポジティブな感覚としてとらえます。欧米から始まったソバーキュリアスが日本でも注目され始めたのが2021年頃。
2020年以降のコロナ禍で外食や飲み会が減少したことをきっかけに、主にZ世代を中心として広まったといわれています。
その背景にはアルコールによるマイナス面を日々の生活から無くしたい、酔わない方がカッコイイという若者たちの思いがあるようです。
こういったソバーキュリアスを実践している人を「ソバーキュリアン」「ソバキュリ」などと呼びます。
注目しはじめた中高年層
著名人、インフルエンサーが既に実践しているソバーキュリアスという生き方は、お酒に逃げずしっかりと自分を持っているという好イメージで、徐々に広まりつつあります。「酒は百薬の長」は嘘で「少量でもリスクはある」と最新の研究により判明されました。
お付き合いで仕方なく、という従来の飲み会の席も、アサヒビールが提唱した「スマドリ(スマートドリンキング)」というお酒を飲む人も飲まない人も気兼ねなくドリンクを楽しむ「飲み方の多様性」という考え方が広がりつつあります。
もう、無理して飲まなくてもいい時代なのです。
こなせる業務量が倍に。ソバーキュリアンになって年商2.2倍
大手監査法人から独立して個人事務所を設立した男性(50代前半)は、独立して3年目の時に、飲酒による翌日の怠さ、早起きできないことや、会食の席の時間の長さ(2軒目、時には3軒目へ、帰宅が0時を回っている)など改めて見つめ直し、これまでのアルコールを摂取していた生活から一転、ソバーキュリアンに。その数日後から体に変化が現れたと言います。まず深い睡眠を得られることで朝の目覚めが良くなったそう。飲酒後の睡眠はどうしても眠りが浅くなってしまいます。
早起きの習慣が尽き、早朝セミナーなども積極的の参加、より精力的に仕事に打ち込む時間が増え、こなす業務の量も倍に。深い睡眠により疲労快復できているのか以前よりも疲れにくくなったそうです。その結果なんと年商が前年比の2.2倍に!
飲酒をやめ、時間と健やかな体を手に入れた結果なのでしょう。
走れる体を手に入れ──念願のサブ4へ
システムエンジニアの男性(40代後半)は、元々お酒が強く飲酒による怠さなどはさほど感じてはなかったものの、日々の業務も多忙な上、ついお酒を多飲してしまう影響が年齢と共に徐々に体に現れ、このまま老化へと向かうのは嫌だと一念発起。ソバーキュリアンになり、まずはダイエットと体力作りからと、朝や飲酒に充てていた夜の時間を利用してマラソンを始めました。学生時代のキレの良い走りは嘘のように消え去っていて、初めは重い体を引きずるようにのんびりと。とはいえ数週間で体重が減少し始めます。
運動だけではなくお酒を飲んでいないのでその分のカロリーもoffされて体重の変化も早かったそう。これが奏功してマラソンが面白くなり、大会にも出始め、ソバーキュリアン2年目にして今年の東京マラソンでなんとサブ4に! ランナー憧れの参加者の上位20%の4時間切りを果たしたのです。
「脱脂質」、酒税は投資に
お酒を飲まないライフスタイルになると、外食で選ぶお店のチョイスが大きく変わったと美容サロン経営の女性(40代前半)は言います。今まではフレンチのお店ではシャンパン、イタリアンではワインを、といった具合にお酒と共に食を楽しんでいたワイン愛好家でもあったのですが、お酒を飲まなくなると必然的に和食を選ぶことが多くなったとか。飲酒時とノンアル時では味覚が若干変わるので、求める料理が変わるのでしょう。和食は脂質が控えめな上、出汁の旨味で塩味も薄め。栄養士やパーソナルトレーナーも推奨する低脂質の食事に変化しているように思います。その結果、血液検査の数値は歴然。確かにお酒のおつまみ類は乾き物は塩分が高め、ナッツやチーズは脂質が高いものが多いのです。
そしてアルコール費が掛からなくなった分は投資へ。酒税を払わなくなった代わりに投資で経済を回すライフスタイルへの変化です。
人生欲張りたい人こそソバーキュリアン?
若い世代の「酔わないのがクール」という生き方から始まったソバーキュリアス。仕事も、時間も、お金も、趣味も全てを手に入れたいと願う欲張りな人生観の中高年層にも多く広まっています。それらを手に入れるためにはまず「シラフ」の時間を多く作り、どれだけ有意義な「シラフ」を楽しみ過ごすかによって人生に差が出るのかもしれません。坂口優子(さかぐち・ゆうこ)◎料理家。東京、大阪の2拠点で料理教室を開催するほか、企業向け社食弁当の提案・提供、レシピ開発も。雑誌、メディア出演多数。