「丸亀製麺」海外進出から官民連携、地方創生まで。変革を生みだす「メタリーダー」とは

山中哲男 | トイトマ代表取締役社長

さまざまの立場のリーダーたちをまとめ、数多くのプロジェクトを率いる「新しいリーダー」。なぜ、トイトマ社長の山中哲男はそれらを実現し、成功に導けているのか。


山中哲男を一言で表すのは難しい。肩書や事業内容、かかわる業界が多岐にわたるからだ。
 
例えば、山中がこれまで携わった淡路島の地方創生プロジェクトでは、レストラン事業を展開するバルニバービと金融サービスのNECキャピタルソリューションとともに、使われなくなった土地や学校などの遊休地1万5000坪を用いて、開放感あふれる海辺のレストランやホテルなど15施設を設立。現在は続々と店舗も増え、「淡路島の西海岸」として、若者を中心に人気を集める観光地へと発展した。
 
そのほか、複数の民間企業を率いてJR大阪駅北側のうめきた2期の安藤忠雄が設計監修したプロジェクトも手がける。大阪・関西万博では、経済産業省や内閣官房などと官民連携で、万博後も継続して事業化を支援するプロジェクトを立ち上げた。そして、世界初、へその緒から抽出される細胞での医療品化を目指す再生医療ベンチャーであるヒューマンライフコードの社外取締役も務めている。

「言うなれば、さまざまなステークホルダーのリーダーたちをまとめる『メタリーダー』ですかね。コネクターでもコンサルタントでもアドバイザーでもありませんから」

山中が代表取締役を務めるトイトマでは、メーカー、教育、医療、アパレルなど幅広い業界の新規事業支援や事業戦略立案を行ってきた。現在、常時携わるプロジェクトは20以上に及ぶ。
 
山中は依頼を受けると、あらゆる企業や人を巻き込みワンチームをつくり、各ステークホルダー同士が納得できるように橋渡し役を務める。「企業や人をつなげるだけでは事業は動かない。企業文化も事業規模も違う会社をつなげるだけでは必ず衝突が生まれますから」と、例えば全体会議がうまく行かなければその都度、個別にミーティングを行い、お互いが納得するまで調整を重ねることも行う。

山中は自らのことを「面倒なことが積極的にできる人」だという。「事業って泥くさい。淡路島の開発でもコンセプトから決めるか、予算から決めるか、業界が違えば企画を進めるプロセスや時間軸など何もかもまったく違う。大規模な事業こそ地道にすり合わせしないと進まないのです」。

始まりは、25歳のときにハワイで立ち上げた海外進出支援サービスだ。日本企業の海外進出に協力してくれる弁護士や金融機関、不動産契約、PRなどを行ってくれる人たちを集め、ワンストップで日本企業が海外進出できるサービスをつくった。「丸亀製麺」の海外1号店であるワイキキ店をはじめ、次々と日本企業の海外進出を成功させた。業界の垣根を越えて協力してくれる人を集め、課題解決に導くやり方はそのころからだ。
 
そんな山中が大事にしている考えのひとつに「プロジェクトに共感する人だけを集めてもうまくはいかない」がある。

「共感だけではそもそもできないこともあるし、事業の方向性が変わるとモチベーションも下がってしまう。自分の役割を理解して協力してくれる人を集めてプロジェクトチームをつくることが機動力につながる。共創ではなく『協創』することが成功させる秘訣です」


やまなか・てつお◎1982年、兵庫県生まれ。高校卒業後、工場にて勤務。25歳でハワイにてコンサル事業を立ち上げたのち、2008年にトイトマを創業、代表取締役を務める。ヒューマンライフコードやバルニバービ、ダイブなど5社の社外取締役を務める。著書に『相談する力』がある。

文=川上みなみ 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事