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2024.03.18 11:00

第7回 パーパスを議論しているが、100年企業の歴史に学ぶとすれば

「NBCメッシュテック」という東京都日野市に本社を置く会社があります。

 その名の通り、メッシュ(もとは網目の細かさを表す単位)を扱う高い製織技術に定評があり、規模はそれほど大きくありませんが、現在パソコンや自動車などのプリント基板に使われるメッシュ・クロスの分野では世界市場を独占している一流企業であります。

 この会社が面白いのは、そのルーツが1934年に八王子の絹織物業者が日清製粉の創業者である正田貞一郎翁(美智子上皇后の祖父)に資本を仰いで創業した〝振るい網の製造業者〟であるという点です。もともとは小麦粉の振るい網からスタートして、世界的な一流企業になった今も、同社は日清製粉グループに属しています。

「信為万事本」という社是

以前、私は山梨県大月にある同社の工場見学に行ったことがあるのですが、応接室に「信為万事本(信を万事の本と為す)」と毛筆で書かれた額が掲げられているのが印象的でした。

 これは正田貞一郎翁が日清製粉の社是として掲げた言葉をそのままNBCの社是としたものだそうです。

 創業者のDNAがNBCという会社の「パーパス」として脈々と息づいていることに感銘を受けるとともに、会社として守るべき、変わってはいけない規範の大切さを改めて認識しました。

 実はスパークスにも創業時から掲げるパーパスがあります。

 それは「世界で最も信頼(trusted)、尊敬(respected)されるインベストメント・カンパニーになる」というものです。ですから「信(信頼)」こそがすべて、と語った100年前の正田翁の言葉には、個人的に大いに励まされるものがありました。

正田貞一郎翁の言葉

『日清製粉100年史』から、もう少し正田翁の言葉を紹介してみます。

・どこまでも信用のおける人、何事も安心して託される人として認められることが極めて大切である。もちろん信用と共に手腕・力量がなくてはならないが、手腕・力量がいささか欠けていても、信用をなし安心がおける点にすぐれていれば成功すること疑いがない。

 いかにすれば信用のおける人、安心をおける人になるかというと、裏表なくその職務に尽くす忠実と、縁の下の力持ちをいとわない忍耐が人一倍あればよいのである。着々と努力して積み上げる。

 どこまでも仕事そのものに全精神を打ち込む。一つの事業に飽くなき努力、途中でくじけぬ辛抱強い根気こそ事業完成の秘訣である。

・会社の成績の良いときは十分気をつけているつもりでも、どこかこぼれがあるものである。いろいろ物を買いたがったりするものである。戒心しなくてはならない。また、いくら努力しても悪いときがあるが、悪いときはいつまでも続くものではなく、必ず良いときが回ってくるものであるから、希望を失ってはいけない。また悪いときは、上にたつものは憂うつな顔をしてはいけない。

 いかなる時でも我々は悪い面のことを考えて、それと同時に常に将来についての希望をもつことを忘れてはなりません。

社会のために何を為すべきか?

正田翁は会社の事業の目的は、株主、従業員、そして社会のために最善を尽くすことだと言っています。そして、そのすべての土台となるのが信頼なんだ、とも。

 そういう意味では、会社のパーパスというものは、自分たちが何をしたいのか、何を目指すのか、ということよりも、自分たちが社会のために何ができるのか、何を為すべきなのかという視点が大事なのかもしれません。

 実はスパークスにはもうひとつのパーパスがあります。

 それは「世界を豊かに、健やかに、そして幸せにする」というもので、資本の水先案内人としてお客様の資産を預かり、必要なところに導くことで、働く人たちも、社会も、そして、株主も幸せにすることができる社会を作りたいと考えています。

 これは何も「きれいごと」を言っているわけではありません。

 会社経営というのはつまるところ、選択の連続です。時代の激しい変化の中で、どちらをとっても地獄というような選択を迫られることもあります。そうしたときに私が大事にしてきたのは、どちらの選択が会社のパーパスに沿っているか、すなわち社会を裏切っていないか、その選択は社会から信頼されるか、という視点でした。

 創業以来、私たちが迎えたいくつかの大きな危機を乗り越えられたのは、「信為万事本」という額に込められた100年企業のパーパスに学んだからだったと改めて思います。

promoted by スパークス/text by Hidenori Ito/ illustration by Jun Takahashi

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