実際にバフェットさんに会ってみて印象的だったのは、ものすごい早口なんですね。僕の英語力ではちょっとついていけないくらいの早口なんですけど、アメリカの非常に有能な投資家にはそういう人が時々いて、例えばピーター・リンチ(全米ナンバー1の運用実績を誇った伝説的ファンドマネージャー)なんかもそのタイプでした。
とにかく何か1つ質問したら、答えが10返ってくるような感じでとても刺激的な時間でした。さらにお土産として「シーズ・キャンディ」(カリフォルニアに本社を置く1921年創業のチョコレートキャンディーのメーカー。シーズ社にほれ込んだバフェットは1972年にこの会社を買収している)までいただきました。
ブランドをマネタイズする
そのバフェットさんの投資術の何が革新的だったかといえば、それは「ブランドをマネタイズした(貨幣価値として定量化した)」ことだったと思います。彼は投資をする際に対象企業の将来の収益力を予想することには、ほとんどエネルギーを使いません。ある収益力の高い企業があったとして、彼が最も重視しているのは、その企業が現在の収益力を将来にわたって維持することができる「消費者独占型企業」か否か、という点でした。
消費者独占型企業とは何か。バフェットの説明は単純明快です。
「もしあなたが、ある川を渡る唯一の交通手段である橋を所有していた場合、あなたの会社は消費者独占型企業ということになります」
具体的にどういう会社が消費者独占型企業かは、バフェットさんが株式を長年保有している会社を見ればわかります。それがコカ・コーラであり、アップルであり、シーズ・キャンディなのです。
「ブランド力」の正体
こうした企業に共通するのは、単に商品を売っているのではなく、商品と一緒に唯一無二の経験や共感を売っているということです。それこそが「ブランド力」の正体ともいえます。シーズ・キャンディーを例にとれば、同社の看板商品であるチョコレートの詰め合わせは、アメリカ人にとっては「家庭の味」であり、「思い出の味」です。単に美味しいというだけでなく、シーズ社のチョコレートを食べて育ったという強烈な共感がブランドの核をなしているわけです。
ブランドが定着すると顧客は心地よさを求めて製品を買います。単に「美味しいから」ではなく、「シーズ・キャンディーだから」買うのです。これはコカ・コーラやアップル、あるいは日本でいえば虎屋の羊羹なども同じです。時代に応じて、多少値段が高くなろうとも、顧客はそのブランドで買うという経験にお金を出すので、消費者を独占し続けることができるのです。
〝バフェットの右腕〟は語る
では、そうした企業はなぜブランドを築くことができたのか。バフェットさんの右腕であるチャールズ・マンガーさん(バークシャー・ハサウェイ副会長)は、ブランドというものを次のような言葉で定義しています。
「ブランドとは期待される質とサービスを提供する顧客との約束である」
どんなときも、顧客の期待を決して裏切らない――単純なことですが、これほど難しいことはないのかもしれません。少なくとも「ブランド」とは、広告代理店に大金を払って会議室で頭をひねって作るものでないことだけは確かだと思います。