だが、中国政府は口先ばかりで、そのような移行を図ることはなかった。重点を置いてきた取り組みが、見栄えのいい目覚ましい成長率を生み出していたためであることは間違いない。そして今、不動産危機や輸出の低迷、地方政府の債務超過に直面し、政府は国民に消費を促そうと必死になっている。問題は、政府が望むほどに人々は財布の紐を緩める気はなさそうなことだ。
中央銀行である中国人民銀行(PBOC)による最近の調査では、消費者のこうした憂いが示されている。消費マインドを示す指数は49.7と、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の56から大幅に低下した。調査時期に全世帯の15%が収入減に見舞われており、さらに多くの世帯が将来の収入減を予想していることが明らかになった。雇用の見通しについては、約43%が仕事の確保に不安があると回答。不動産価格に対する見方を示す指数も、パンデミック前から15%近く悲観的なものになった。一方、米ニューヨーク連銀が行った調査では、不動産価値がすぐに上がると予想している中国の世帯はわずか15%だ。
こうした状況を踏まえると、PBOCの調査で世帯の約60%が消費より貯蓄を優先し、消費を優先すると回答したのは25%にとどまったことは驚くには当たらない。中国人は確かに貯蓄好きとして知られているが、これらの数字は3~5年前からの劇的な変化を示している。
貯蓄志向は銀行預金残高の増加にも表れている。新規貯蓄は昨年初めにはすでに急増していたが、今年に入って加速している。特に、利回りのいい長期の定期預金を好む傾向が見られる。消費より貯蓄に金を回す動きは、昨年住宅ローンを返済するスピードが借り入れを上回り、住宅ローンの残高が実際に減少したという事実からも明白だ。こうした傾向はPBOCが金利を引き下げても続いている。中国のデフレは根強く、名目金利が引き下げられてもなお、人々は以前にも増して消費より貯蓄の方に魅力を感じるため、金利引き下げの効果が限定的であることは驚きではない。