アート

2024.03.10 15:00

文化は巡るから面白い 「美術館のイノベーション」を目撃せよ

田中正之|国立西洋美術館長

インクルージョン、ウェルビーイング並んで重要なのがイノベーションだ。経済学者ヨーゼフ・シュンペーターはイノベーション理論で「創造的破壊」、そして常識に囚われない「新結合」の重要性を説いた。これは経済だけでなく、美術で考えてみても当てはまるところがある。本来、美術館とはイノベーションを起こす場、それを見せる場でもあるからだ。例えば、シュンペーターと同時期に勃興した「キュビズム」は、単にそれ以前の技術革新でなく、最も目に見えるかたちで、アートの価値観を変えた。
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モネやゴッホなど19世紀のフランス画壇におけるジャポニズムもイノベーションだ。しかし、そのきっかけとなった広重や北斎の浮世絵は、もとは西洋の遠近法の影響を受け発達したものだ。そして近代になると、今度は日本で印象派の影響を受けた日本画や洋画が発達する。このように歴史のなかで起きた文化の相互作用、イノベーションを体感し、西洋を通して日本を見つめ直し、日本を通して西洋をとらえ直、国立西洋美術館の面白さでもある。

その意味で、3月12日から始まる企画展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」は、現在進行形のイノベーションといえる。国立西洋美術館ではじめて現代美術を大々的に展示する企画展で、発表以来、その反響の大きさに我々自身も驚いているところだ。

同展では、21組の参加アーティスト、そして来館者による複数の声を響かせる場にしたい。経済も美術も常にダイナミックに変化するもので、それこそが文化の面白さでもある。時代を超えて西洋美術と日本の現代アートが並ぶことで、これまでとは違う新たな解釈がされる機会となればと思っている。
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また、特に現代アートの作品を通じて受け取るのは面白いか、感動するかという刺激だけではない。キュビズムのころは、より前衛的で新しいを求めるという、成長を追い求めた資本主義時代であったが、今はそうではないからだ。環境問題、格差問題など、作家は表現を通じて時代の問題を問いかける。美術館はその問いを受け止め、考えを巡らす場でもある。

「ポスト資本主義社会における人々の生活を考えるなら、美術館に行きましょう」と言いたいですね。未来を考える場であり、ビジネスとも大いに絡みうる。美術のエネルギーに触れることで、心の中で何かが発動しはじめるかもしれない。同時代を生きる多くの方に、このイノベーションの目撃者になっていただきたい。


田中正之◎国立西洋美術館第11代館長。1963年生まれ。1995年東京大学大学院人文科学研究科美術史学専攻博士課程退学。専門は西洋近現代美術史。1996年より国立西洋美術館に勤務し『ピカソ 子供の世界』展(2000年)、『マティス展』(2004年)、『ムンク展』(2007年)などを担当。2021年4月1日から現職

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文=鶴岡優子

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