昨今、ワシントンD.C.から北京までの中央銀行トップたちは、ストレスに疲れた自分の顔を鏡で眺めながら、少なくともある1点について、慰めを見いだすことができるだろう。それは自分たちが、日本銀行を率いる植田和男総裁の立場にはないという点だ。
日本の株式市場と経済の実態は、他国とあまりにかけ離れている。各国の政策立案者の中で、日銀総裁を務める植田氏に突きつけられた課題をうらやむ者は、ほぼいないはずだ。
とはいっても、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長や、中国人民銀行の潘功勝(Pan Gongsheng)総裁が、2024年に入ってからの60日強の間、気楽な日々を送ってきたというわけではない。パウエル議長も潘総裁も、日増しに強まる利下げ圧力にさらされている。
これに対して、植田総裁が直面しているのはまったく逆の課題だ。日本では実に23年もの間、量的緩和が続けられており、世界の市場は植田総裁が率いる金融当局に対し、同国の金利政策を正常化するよう焚きつけている。確かに日本銀行も、新しい年を迎えた時点では、その方向に進む計画だった。だが、それ以降の現実の動きが、植田総裁の意思決定プロセスを複雑なものにしている。
第1に、日本は再び景気後退に向かっている。第2に、中国における経済減速の深刻度や持続期間が不透明な状況だ。第3に、日本の株式市場が、空前の上げ相場を迎えている。
このうち最初の2つについては、金融緩和にブレーキをかけることに植田総裁が慎重になっている理由と考えていいだろう。GDPが低下を示している状況においては、日本銀行の「テーパリング(量的緩和策の縮小)」は、適切には見えない。
2024年2月になって発表された2023年の10-12月期のGDP統計(1次速報値)は、前期比年率マイナス0.4%と下振れしており、さらにその前の四半期である7-9月期には、前期比年率でマイナス3.3%と大幅に縮小していたことが判明した。