大統領選挙とアメリカの未来


 

日本に「来年のことを言えば鬼が笑う」とことわざいう諺があることは知っている。だがアメリカ、とりわけワシントンDCでは、来年2016年11月8日(火)に予定されているアメリカ大統領選挙が、すでに大きな注目を集めている。

日本やイギリスでは、国政選挙の選挙活動期間は数週間しかないが、アメリカの大統領選挙はほぼ2年間続く。期間が長いことの利点は、相当な期間にわたって、候補者の能力や実績、人間性など多様な側面を検討し、検証できることだ。

他方、この制度は莫ばく大だいな資金と時間が必要で、その間重要な政策の決定や実施に十分な関心が払われなくなる危険性がある。

アメリカは、基本的に二大政党制の国であるため、他の第三政党の候補者が来年大統領に選ばれる可能性は低い。共和党からは、20名近くがすでに出馬を表明したか、今後すると見られている。現時点では、クルーズ、ポール、ルビオ、カーソン、フィオリーナ、ハッカビー、サントラム、パタキ、グラム、ペリー、ブッシュ、ウォーカー、クリスティ、ジンダル、カシック等である。

このように候補者の数が多いのは、共和党では、誰をリーダーとするかや、将来の方向性についてのコンセンサスがないためと見られている。これは、超保守的な「ティーパーティー(茶会党)」が数の割に力を持ち、共和党主流の考え方や政策、リーダーたちに挑戦しているからだ。

また、立候補者の乱立は “ オバマ現象 ” のためとも言える。08年に1期目の上院議員で国政経験がほとんどなく、全米に知られていないバラク・オバマが大統領に選ばれたことで、「自分も大統領になれるかもしれない」と立候補する傾向があるのだ。

民主党では、ヒラリー・クリントンが候補者として先頭を走っている。だが、彼女を国内政策や外交政策において、十分に進歩的でないと見なす党内候補者が対抗している。例えば、サンダースやオマリー、チェイフィー、ウェッブなどは、“ 左 ” からクリントンを攻撃している。なかには、ウォーレンのように、大統領に立候補しないと決めたにもかかわらず、「クリントンはあまりに保守的で、ウォール街に近い」と批判する人もいる。

来年前半の候補者の討論と予備選挙で候補者の数が絞られ、7月の共和党全国大会と民主党全国大会において、各党の指名候補者が決まる。それから、2人の指名候補者の間での本選が始まることになる。

この選挙で興味深い話題のなかには、次の4点がある。第一に、共和党の将来についてである。共和党員には、アメリカの人口動態が民主党に優位に働いているとの危機感を持つ人もいる。民主党は、増加傾向にある若者、女性、アフリカ系アメリカ人、アジア系アメリカ人、ラテン・アメリカ系アメリカ人、LGBTコミュニティに支持されているからだ。これらの共和党員は、白人男性有権者を超えて、より幅広い層を取り込まなければ、共和党の将来は暗いと主張している。

第二は、現在はクリントン候補が優勢だが、民主党は大統領候補として「新参者アウトサイダー(例えば、カーター大統領、クリントン大統領、オバマ大統領)」を好む傾向がある。クリントン候補の批判者は 、「すでにワシントンの関係者で、“クリントン王朝”との批判があるヒラリーを有権者は大統領候補として本当に選ぶだろうか」と疑問を呈する。

第三は、多くの人が予想しているように、結局は、クリントンとジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事との間の戦いになるということ。そうなれば、これは、クリントンとブッシュ一族同士による世襲的戦いという異例の状態になる。そして、もしブッシュが勝てば、28年の間に、父親とその2人の息子がアメリカ大統領を務めることになる。

最後に、クリントンが勝った場合、アメリカ初の女性大統領の選出が、アメリカおよび世界に対して、どのような影響を与えるかという点である。

これらの話題が、今後1年半のアメリカ人、特にワシントンDCにいる人々の一番の関心事となろう。

グレン・S・フクシマ (GLEN S. FUKUSHIMA)

この記事は 「Forbes JAPAN No.13 2015年8月号(2015/06/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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