第81回ゴールデングローブ賞の映画部門では最多の9ノミネート、2冠を達成したが、アカデミー賞では主演女優賞や監督賞にノミネートされていなかったことで、「映画で描かれた男性中心社会そのものだ」などと物議を呼んでいた。そのくらい観客の間での作品評価は高かったと言える。
本作の日本での反響を巡って興味深かったのは、言うまでもなく「バーベンハイマー」というインターネット・ミームに集まった批判だが、もうひとつは公開後のSNSで、フェミニズム映画と捉える人々とアンチ・フェミニズム映画と捉える人々とに分かれる現象が見られたことだ。
それぞれの議論の詳細には立ち入らないが、彼らの大多数が「(フェミニズム映画/アンチ・フェミニズム映画として)傑作である」と見る点ではほぼ一致していた。
こうした議論が起こることは、制作側にはもちろん想定されていただろう。ファンタジーと現実の重層的な構造を持ち、フェミニズムの理想と男性中心社会を共にカリカチュアライズしつつ、ブラックな笑いの中に男女のすれ違う感情や本音を散りばめている一方で、母から娘へと引き継がれる女性たちの営みへの敬意も忘れない。細かな目配りやバランス感覚、メタ的視点が随所で冴え渡っていた。
果たして『バービー』は、これまでのフェミニズムを継承しているのか、批判しているのか、あるいは更新しているのか。以下、フェミニズム、アンチ・フェミニズムの現れと見られる箇所をざっくりおさらいしつつ、その対立を超えてこの作品に密かに埋め込まれているはずの、もっと大きな”爆弾”について考察してみよう。
全員が何にでもなれるし、輝ける?
冒頭は『2001年宇宙の旅』のオープニングを模したつくりだ。ママ役になって赤ちゃん人形で遊ぶ少女たち。そこに、自分自身の理想を投影するバービー人形が現れ、少女たちの世界観は一新される。バービーが少女のロールモデルであることをわかりやすく示していると同時に、フェミニズム登場の隠喩とも捉えられる。
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