経済・社会

2024.03.11 13:00

企業の不祥事とSNS。真に意識すべきは?

Forbes JAPAN編集部
メディア桟敷の人々の多くは、D社を「豹変した」「タレント切り捨てか」「遅すぎる」と批判したが、冷静な企業人や組織の危機管理に通じる人々は、高く評価した。訴訟にまで発展した極めて悩ましい事案だったが、相応の調査を踏まえて初動を修正し、会社としての人権や不適切行為に対するスタンスを明確にしたからだ。いささか遅速だったとはいえ、欧米の格言にいうBetter Late than Never、遅くても何もしないよりはるかに良い。

繰り返す。危機管理の急所は初動にあるが、もしその誤りに気づいたら、恥を忍んで公表することだ。その勇気が組織を救う。

もうひとつ、現代社会で気をつけなければならない点が、情報格差や知見の差に無関係の、数の論理がまかり通っていることである。情報インフラの発達で、興味本位で無責任な言説がすさまじい速さで拡散する。検証のプロセスも危うい。井戸端会議や居酒屋の与太話があっという間にネット社会を支配する。それをテレビで「有識者」たちが煽り、ネットがさらに反応する。「世論」は数時間で形成される。しかも世論への無謬性信仰は相変わらず健在だ。

危機管理に携わる人々は、ヘンリック・イプセンの言葉を噛み締めたい。「真理と自由にとって危険な敵、それはぎっしり詰まった多数票だ」。企業や組織は、真理でも自由でもなく、異説を受け入れない世論を常に意識しなければならないのである。


川村雄介◎一般社団法人 グロ ーカル政策研究所代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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