西側の核不拡散の専門家が好んで探るような、手の込んだかなり複雑な戦略態勢を示しているのではなく、この数字は極めてシンプルな防衛戦略を示唆している。中国の奇襲をいかに抑止するか、ロシアが10年以上前に多くのことを真剣に検討していたことが文書で示されている。
戦略文書は2014年までのもので、報復を想定した数字になっているようだ。米海軍情報局は2015年に、ロシアが太平洋で運用しているのはボレイ級の核弾道ミサイルを搭載する潜水艦2隻、それから攻撃型原子力潜水艦と巡航ミサイを発射する潜水艦の6隻程度と考えていた。ロシアの海軍基地はすべて、当時射程を伸ばしつつあった中国の中距離ミサイルの射程圏内にあったことからして、中国がロシアの太平洋艦隊を壊滅させようと奇襲をかけた場合にどうなるかを詳細に記しておくことは妥当なようにみえる。そしてこれは米国の戦略家が心に留めておくべきことかもしれない。
現在のロシアの核抑止力は10年前よりも低下している可能性がある。筆者が以前書いたように、ロシアが弱体化し、欧州での動きに気を取られている今、中国は軍事力を用いることなく、ロシアの力がそこまで及んでいない東部の領土を事実上併合する真の機会を手にしている。
中国が突然の領土強奪に動く素地は整っている。中国は長年にわたり、ロシアとの長い国境に関して恨みを鬱積させてきた。多くの中国人の間では、太平洋側に位置するロシア極東地域最大の都市ウラジオストクはロシア名で知られていない。古くからの中国名が今でも広く使われている。中国との経済的・文化的結びつきは無視できないものになりつつある。
ロシア東部の領土権の変更は刻一刻と迫っている。中国は核戦力を急速に増強しており、これによりロシアの核抑止力ははるかに弱くなっている。また、民族的・経済的バランスが変化し続ける中、欧州に注力しているロシアの支配層は日に日に弱体化している。中国はやがて、ロシアがウクライナ南部クリミアで実行した戦略をそのまま流用し、往々にして信頼できない核抑止力に領土保全を託すロシアの望みを砕くために、似たような戦術を用いるかもしれない。
(forbes.com 原文)