別の時代であれば、このような大物野党政治家の葬儀は黙殺されたかもしれない。だが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の指示で毒殺されたと主張するナワリヌイの支持者らは、動画投稿サイト「ユーチューブ」で葬儀の様子をライブ配信した。2011年の「アラブの春」をほうふつとさせるような画像や動画が、ソーシャルメディア(SNS)上で瞬く間に広まった。
今から107年前、ユリウス暦の1917年2月、帝政ロシアでは民衆の大規模な抗議行動が二月革命に発展し、ロシア帝国はわずか数日で崩壊した。二月革命は指導者も正式な計画もないまま始まった。
少なくとも現時点では歴史が繰り返されることはないだろう。しかし、ロシア国内にプーチン大統領やウクライナ侵攻に反対する人々が存在している事実を、SNSは世界に示した。ロシア政府はこうした光景が国境を越えて拡散されるのを好まないかもしれない。けれども、SNSは誤報を広める一方で、真実を伝えることができるのも明白な事実だ。
SNSが国境を越えて言論にもたらす影響について、米ミシガン大学情報学部教授で副学部長のクリフ・ランプ博士は、誤った情報の拡散や礼節の低下という観点から数多くの議論がある中で、SNSが良い影響をもたらしている例も数多くあると指摘。
さらに次のように説明した。「その1つは、SNS企業は政府の支配に抵抗する傾向があり、世界中にサーバーを持っているため、政府が報道機関に対するのと同じように統制することが難しいという点だ。これに対する唯一の解決策は、中国がやったように、サービスを完全に企業から切り離し、代わりとなるものを国内で開発することだ。SNSでは、情報を作成し共有するための障壁が低いため、多くの人が抗議のコンテンツを共有することができる。これだけ多くの人々が投稿を拡散するから、ラジオ局や新聞社のような1つの情報源より統制することが難しくなるのだ」
ロシアに転機は訪れるのか?
二月革命が起こったのは、帝政ロシアが戦争に巻き込まれ、実質的に行き詰まっていた時だったことも忘れてはならない。現在のロシアの経済状況とは大きく異なっているが、戦争反対の声はどれだけ誇張してもしすぎることはない。米ニューヘブン大学コミュニケーション・映画・メディア学部のスーザン・キャンベル講師は、次のように述べた。「現大統領は司法と警察を完全に支配しているようだが、この国民的な盛り上がりがロシアの転機になるかもしれないという期待がある。SNSによる運動という観点からは、確かにこの国を深く変える可能性がある。SNSは、ニュースの消費者がメディアを主体的に読み解く能力を試し、引用している情報源がプロパガンダではなく、正当なものであることを確認するのに最適な場でもある。アラブの春も同じような可能性を持っていたが、投稿に『いいね』を付けたり共有したりするだけでは不十分だ」
スマートフォンとインターネットさえあれば、誰もが世界中に情報を発信できる世の中では、専制君主や独裁者、腐敗した政府が反対意見を鎮圧することが難しくなっている。先述のランプ博士は、抗議行動やそれに代わる言説を共有する上で、SNSは依然として効果的な手段だと強調した。
(forbes.com 原文)