インドの他の約1億2500万戸の小規模農家と同様に、クリシュナもこうした厳しい課題に直面しながら自身と家族を支えています。このような農業生産者にとって、農業は大きなリスクとわずかなリターンしかないギャンブルなのです。インドでは、何千人もの農業生産者が自殺しており、経済的な絶望や気象がもたらす課題が人々に影響を与えています。
これは、インドに限ったことではありません。開発途上国では、推定5億の小規模農家が約20億の人々を支え、アジアとサハラ以南のアフリカで消費される食料の約80%を生産しています。クリシュナや世界中の小規模農家の苦境に対処し、よりサステナブルで公平な未来を創造するためには、金融におけるインクルージョンと気候変動へのレジリエンス(強靭性)を考慮したホリスティック(全体論的)でスケーラブルなアプローチが必要です。
農業イノベーションにAIを活用
世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターが、インド連邦農業省およびテランガナ州と共同で「AI4AI(農業イノベーションのためのAI)」イニシアチブを立ち上げたのはこのためです。課題の複雑さを反映し、産業界(農業資材、消費者、食品加工、金融、保険、テクノロジー企業)、スタートアップ・エコシステム、農業生産者組合などの組織が参加しています。同イニシアチブは、2020年6月から8カ月間にわたり45以上のワークショップを開催し、小規模農家が直面する課題に対して第四次産業革命がどのように支援できるかについて議論しました。こうした議論は、AI、ドローン、ブロックチェーンなど新たなテクノロジーの力を活用して小規模農家を支える「AI4AI計画」につながりました。
フレームワークからインパクトへ
私たちは、インドのテランガナ州カンマム地区で、7000人の農業生産者を対象にAI4AIのフレームワークをテストしました。産業界やスタートアップのパートナーを巻き込み、州政府と共に開発したデータ管理ツール(農業データ交換システムと農業データ管理フレームワーク)を使用し、この大規模な農業生産者グループでの取り組みを拡大したのです。現地で「Saagu Baagu」と名付けられたこのイニシアチブは、チャットボットによるアドバイザリーサービス、土壌検査技術、AIベースの品質検査、買い手と売り手をつなぐデジタル・プラットフォームを使い、カンマム地区の唐辛子農業を変革しています。